平沼:どんな本を中心に、どれくらいの時間、集中して読まれましたか。

安藤:建築史や構造、構法から建築論に至るまで、およそ建築に関係するあらゆる基本書を読みあさりましたね、毎日、朝の四時まで。(笑)

平沼:わはは。(笑) 学校に行くより、辛いかもしれませんね。

安藤:でも「やりたい」と思う、建築の本を読んでいたから、そんなに苦痛ではなかった。もちろん、楽ではなかったですが。

平沼:自分が好きだと思えることや、憧れを貫き通す仕事に就きたいと思うなら、人が嫌がることをして、毎日、継続した相当な努力が必要だということですね。

安藤:まぁ、意欲はあるうちに使わないと。鮮度のような時期があるから、失敗しないようにじゃなくて、失敗してもいいから、辞めない、諦めない才能を身につけんといけませんね。そのうち成功をしたり、小さな目標の実現を叶え重ねると、その意欲が新たな意欲を生み出しします。

平沼:人生の目標に向かう目標がもてなければ、自分と厳しく向き合う時間だけを持ち、目標が持てれば、成功者かつ挑戦を続けている人にだけ、その経験を聞けと言われたことがあります。

安藤:まぁ私にも経験があります。成功した人は夢を語り、失敗した人は不満を語りますからね。若い人は特に嫌事を言う人に注意した方がいい。(笑)

平沼:レクチャーの後半で、現在進行中のパリのプロジェクト、ブルス・ドゥ・コメルスと中之島のこども図書館を見せていただきました。現在の安藤さんが建築をつくられる時に、形態や空間性はどのように導き、どのような周辺環境を含めた建築をつくられていきますか。

安藤:まずこども図書館の計画地に隣接して中央公会堂があります。この辰野金吾がつくった公会堂をはじめて観たときから、大阪に誇りのような思いを持つようになりました。そして御堂筋を歩いていて、やはり街並みに愛情を抱くようになりました。私は建築をやっているから特にそう思うのかもしれませんが、建築や街なみから食文化や人情文化を生まれます。それが年月を経て、後の時代に価値を高めて、その街に住む人々に誇りを与えるような光景となっていくのだと思います。私が大阪に誇りを持ち、ここから絶対に離れないと思ったように。「こども本の森 中之島」(中之島のこども図書館)の計画には、自分の魂が住む処をつくらないといけないという思いが込められています。

パリのブルス・デ・コメルスでは、現在の街の風景に馴染み、よい環境を導く建築の存在を活かしながら、保存修復の方法を探りながら再生の方法を模索していました。そしてGL下に拡張する特殊解を見出していくのですが、できるだけ歴史に連なる建築空間を意識しながら、次の時代にバトンを受け渡すような空間の在り方で設計しています。

ちょうど隣接してポンピドゥー・センターがあります。ポンピドゥー・センターは時代を颯爽と駆け抜けた建築じゃないですか。これに呼応するような建築と環境のあり方を求めていきました。ちょうど今年、このポンピドゥー・センターで展覧会を開催していました。オープニングの日には、この建築を設計したレンゾ・ピアノをはじめ、ノーマン・フォスター、ジャン・ヌーベルなど友人の建築家たちが、いっぱい来てくれました。彼らと「やっぱり人が誇りを持てるような建築をつくりたいね、」と言っていました。でもみんな、プロジェクトの大きさが、組織事務所にもとめられるような規模のように、だんだん大きくなってきているんです。そうなると求められる経済効果目標から、簡単に、誇りを持つ建築ができなくなるのだけれどもね。

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