長谷川:これは上海のオフィスビルでコンペでした。クライアントは儀電といって、日本で言えば電電公社で、はじめは国との契約でした。最初は儀電のオフィスだけだったんですけど、だんだん社会の様子が変わって不動産部ができてレンタルオフィスになりました。高層ビル4棟、低層ビル6棟ぐらいのものは初めてでしたね。最初は、儀電のえらい人が、ガラスの上にパンチングメタルでレースを2重に被せたようなフェミニンな建築がオフィスビルとしていいんですかって質問をしてきました。ロンドンでのレクチュアの時にもある建築家に、女性がオフィスビルを設計するって今までないだろうと、本当にやっているのかって質問を受けましたが、まあ、要するにオフィスビルっていうのは男性的でハードな建築であると。実際、上海のオフィスビルは大体ガラス張りの固い建築ばかりですね。中国ではいつもデザインというのは外国のアメリカとかイギリスとかフランスの建築家がやって、中は自分たちがやるんです。それですごく固い建築ばっかりできる訳ですけど。
 このパンチングのパターンは今まで日本で使ってきた物とは違うんですけど、図書館に行って中国の伝統的なテキスタイルを調べた時に、こういうテキスタイルのパターンがあったんですよ。それが凄く美しいので、真似してパンチングメタルをもう1重被せるデザインにしたんです。夜景では重なっている様子が出て凄く綺麗だと私は思っていますけれども。今ではその偉い人もなかなか良いって言ってくれるようになって、割と評判が良くて、次のコンペが来ています。
 あとは、広大な敷地ですから、敷地全体の緑化と人工地盤的な空中庭園とか、高層オフィス棟の中間階にもさっきのパンチングメタルで囲まれた半屋外的なテラスのミーティングスペースがあちこちにあって。上海も気候が温暖で過ごしやすい街ですから、緑の中にあって、半屋外的なスペースは快適なんですね。オフィスビルだからといって閉じてエアコンをかけて快適というのではなくて、これまで住宅や公共建築で考えてきたのと同じように快適な場でありたいと。
 中国は市役所で確認申請をとりに行ったりするとですね、6〜7割女性ですよ。男女共に働いているんです。すごく実力がある人が女性だったりするし。最近参加したコンペの主催は、社長さんも副社長さんも女性でした。こういうフェミニンな建築が受け入れてもらえるだろうかと心配していましたけど、儀電のオフィスビルが実際にできて評価されるようになりました。

 これは最近招待された上海金橋のコンペです。国が進めている開発特区ができて、そこのエリアにレクリエーションの場所もありますし、ホテルもあります。その中にオフィスをつくる。ロボットやITの研究所が中心で、大学みたいなところですけどね。敷地全体を緑化して人工地盤も空中庭園にしてブリッジをかけてみんなが歩き回れるようにして、それぞれの建築物を植物をイメージするようなメッシュで包んで、新しい時代のガーデンオフィスとして提案しました。
これは2月の始めまで1等賞だったんですけど、中国のお正月が始まる日に2等になっちゃた。(笑) 1等賞は、アメリカの大学みたいに真ん中に芝生が敷いてあるだけの案でした。

平沼:ああ、さっきの話。いくつか質問を、いかがですか?

芦澤:そうですね。最初のキーワードに出ていて、作品を見て凄く感じたんですけど、ランドスケープアーキテクチャーって長谷川さんおっしゃっていて。その思想が最後の作品、海外のプロジェクトとかに繋がっているのかなと思ったんです。ランドスケープについて持っている範囲のボキャブラリーが広いと思うのですが、建築とランドスケープの融合って長谷川さんならではの考えをお聞かせいただけるといいなあと思います。

長谷川:それは本当に何処かで上手く融合させたいなと思っていまして、どうしたらこれからの建築は、住宅のような生活するような街でも、オフィスビルのような働く街でも、もっと有機的で生命的な空間にしていけるだろうかと。でないと、私達は住みたいとか働きたいとか意欲を持てないと思うんですね。多元的で有機的で、時間の流れの中で空間がちゃんと持続されていることがわかる、新しい感性や空間の使い方と地域固有のなにかを結びつけるような、そういう建築がランドスケープアーキテクチャーなんだと思います。それがこれからの課題で「第2の自然としての建築」でもあると思うんですよ。
 もう既に21世紀も1/5位終わっていますけど、なんか21世紀の建築ってまだできてない気がするんですよね。今、近代化が行き詰っていて、グローバルなものとリージョナルなものが分裂してしまっていて。グローバルな経済活動のアイコンとしての建築か、建築には至らないようなまちづくりとか活動のプログラムか。どちらも閉塞しているように見えるんです。そこで生きている人たちの身体とか感性、生活や活動っていうのはなにかを引き継いできているわけですから、もっと身体に近いところでできてくる空間だとか、時間の中で変化しながら繋がっているもの、地域の特徴ある何かを携えて建築化していく、そういう時代だと思うんですね。それが21世紀の課題なんじゃないかなと。そういうことを若い人達には期待したいなと思います。建築っていうのは人が生きてく、生命と関わる事ですからね。

平沼:現代社会における建築家の役割をこれからどのように担っていけばいいかっていうことですよね。

長谷川:建築家はもっと積極的に考えを提出していくべきですよね。本当は政治家とか行政の人の役割だけど、全くもって無いですよね、私が知る限りは。行政の人とか政治家とかいうのは、一体なんなんだろうとか思ったり。ふふふ。

平沼:(笑)

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