平沼:ふふふ。なるほど。
長谷川さん、ご自身の建築形態、空間はどのように導き出されていますか?

芦澤:形は色んなボキャブラリーがおありですよね。

長谷川:私は割と丁寧に、敷地見て、図書館行ってその敷地の歴史を調べたりしますね。湘南台の敷地が丘としての歴史を持っていて、昆虫採集やお祭りに使われていたとか、新潟の敷地あたりは信濃川河口で浮島の風景があってそこでいろんな芸能が展開していたとか。人々の活動と結びついているその敷地の一番美しい風景を探しているんですね。珠洲ではワークショップに通っている時、新潟から福岡へ行く時だったか、飛行機から雲の合間に見え隠れする能登半島の日本画のような風景をみて。そしたらしょっちゅう雲が出るところなんだと地元の人に教わって。じゃあ、雲みたいな建築にしようと。そうやって浮かんできたイメージを大事にして、それをみんなに伝えて議論するっていうやり方が多いんじゃないかな。それぞれの地域から切り離された論理とかインスピレーションだけでつくっている訳じゃないんですよ。敷地の持っている状態とか歴史みたいなものがすごく大事なんですよね。公共建築って文化的な事だから歴史と関わる訳ですよ。

芦澤:じゃあ結構リサーチには時間を取られているんですか?

長谷川:そうですね。いわゆる学者的なリサーチとは違うかもしれませんけど。歴史だけではなくてそこにある人々の活動や生活、植生とか。新潟の例だと、コンペの要項には市民の活動なんて全然書いてない。それなのに専門ホールを3つもつくりたい。市民が使うということを想定していない。だけど私が調べた限りでは、新潟ではオペラ協会とかモーツァルト協会とかクラシック愛好者がいっぱいいるし、日本舞踊も凄いし、歌舞伎も好きだし、能楽堂も凄くいっぱいあったり、芸能の地なんですよ。さっき言った綾子舞なんて国宝級の踊りなんですね。それも特別な人が踊るのではなくて、普通の若い女の子たちが、年上の女性たちに教わって踊るんです。いつもは学校に通っている普通の女学生たちなんです。すごい腰を下ろして踊るので、田植えとか農作をずっとやってきたような土地の人じゃないとできないような踊りなんです。専門のダンサーでもそういう女学生に習いに来るくらいなんですよ。でも市民の生活の中にある芸能を上演する場所が要項にはないんですよね。それで市民の芸能の場を信濃川の浮島に見立てたランドスケープや、練習場でもある小ホール、市民ホールとして提案したんです。だから多くの人がどんどん使う。つまり、地域の状況を読んでいなかったら、ランドスケープの提案もできないんです。ワークショップとか市民との対話も一面では地域の状況を理解するための手段でもあるんですね。地域に生きる人々が持っている感性とか身体とか色の好みとかを通じて伝わってくるものとか、目には見えなくても日常生活の中にあるディテールとか。そういうことをひっくるめて街の歴史を読むっていう事を凄く大事にしながら公共建築をつくってきたつもりです。

平沼:ご自身の個性って何だと思われますか?

長谷川:色んな事が好き。八方美人で色んな事が好き過ぎるんですよね。新潟の椅子、緞帳のテキスタイルデザインまでしました。5年くらいワークショップをやった時に、魔笛のオペラを組み立てると自分で演じたり、歌舞伎も出たし、なんかすぐやっちゃうところがあるんです。何でもやる事が好きですね。演劇も音楽も。新潟とか湘南台、沼津のマークも私がつくっているし、グラフィックもやるし。住宅だけでじゃなくて公共建築の家具もやるし。植物もやるし。なんか全部やってしまいたい人なんですよね。スタッフに言わせればそれが欠点ですね。専門家に頼めばいいのに。

平沼:なるほど。

長谷川:沼津でイングリッシュガーデンのデザインもしちゃうみたいな。植物好きだけど、しかしいつもスタッフの批判は、やり過ぎっていいますね。

芦澤:スタッフとはどんな感じでやられているんですか?長谷川さんが大体決められるとか?

長谷川:スタッフは設計好きなので、私が持って帰ってきたイメージとか情報を建築にしていく過程で議論も提案もしてくれるし、そこは相当柔軟にやっています。ですけど、みんなワークショップとかは嫌いですね。コミュニケーション下手ですもんね、男の人は特に。ワークショップをやったり市民と関わることを建築家に馬鹿にされていると手伝ってくれないんだな、スタッフが。あはは。

平沼:いくつか海外のプロジェクト見させてください。

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