塚本:住民とのワークショップはあったのですが、個別の建築家が参加するものではありませんでした。でも建築家同士のワークショップは三回ぐらいありました。参加した建築の中では私が一番年上で(笑)、フランスの人たちはまだ30代で、初めてパリで仕事ができると興奮していました。敷地周囲には歴史的な建物が少なく、形態的規制は強くなかった。パリの新しい集合住宅のブロックに行ってみると、建築家のスタイル自慢みたいになっていて、小規模な博覧会のようなので、ああいう建築動物園は止めようと、ワークショップで発言しました。すると皆そういう時代じゃない、建築動物園はやめようと言うんだけど、具体的に議論し始めると全然逆のことになる。タイポロジーの教育がフランスでは失われてるんですかね。とにかく個性豊かにすることが現代の社会的コンセンサスになっていて、調和に失敗しようとそれはそれで構わないという態度なのかなぁと思いました。私たちは、パリのアパルトメントのオーセンティシティに近づこうとしていた。結果的にはフランスの建築家はなぜこういうふうにできないのかと、フランス人が言っていました。

平沼:そんな塚本さん。なぜ建築をやり続けるんですか?

塚本:自分では変えられないものが多いなか、それでもまだ世界を構築できるのが面白いからかな。

平沼:それは共感できます。
 
塚本:特に公共の仕事では役場の担当者は年度が変われば交代してしまうし、職人さんも部分的にしか関わらないし、市長も途中の選挙で変わってしまうかもしれない。建築に従事する人の中で、考えはじめから完成までを通しで見ているのは建築家だけです。だから失敗も、成功も知ることができる。フィードバックができる。そして建築の最初はどこまでも遡ることができるし、最後も自分の努力でどこまでも先延ばしできる。そうやって考えてくうちに、どうしてこの場所にこの社会があるのか、なぜ今この建築が必要なのか、といったところまで繋がっていく面白さがあります。

平沼:すごい引き出しですね。最後に芦澤さん質問をどうぞ。

芦澤:今後、どのような建築をつくっていきたいですか?プログラムの話でも、こういう所にはこういう建築をつくりたいなど、聞かせてください。

塚本:やりたいことは色々あります。今の時代のリアリティの中で、街並みをつくることができるのかは、常に興味があります。そのためのフィールドが必要です。機会が与えられれば、私はやりますよ!それからパブリックスペースを生き生きとしたものにすること。施設なら、街の真ん中にマーケット。東京のマーケッットは湾岸に押し出され、専門家しか行かない場所になっていますが、それを街中に戻してみたいです。

平沼:毎回、来てくださった建築家の方に聞いていて、月並みですけど、建築家とはどんな職業だと思いますか?

塚本:時間的に長い尺度を持って歴史的に考えることで、「今ここ」ばかりになっている世の中の価値観を相対化し、良い方向に導いていく役割だと思います。

平沼:今日はどうもありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

(拍手)

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