塚本:最後は、北本駅のビデオで終わりましょう。
平沼:本当ですか?せっかくご用意してくださったのに…。(汗)
塚本: 埼玉県の郊外都市、北本駅の西口駅前広場の改修プロジェクトです。今までこの駅は、東京に通う市民を送り出すポンプの役割を果たしていましたが、その通勤者たちがちょうど大量に退職する時期となり、駅の役割をまちの顔に変えて、コミュニティが出会う場にするのが目的です。これまで駅前広場の全体を占めていたロータリーを、三角形にすることによって、余白に多目的広場をつくり出しました。法的には道路のままですが、ここの使い方、管理運営を話し合いやワークショップを通して町の人たちと議論して決めていきました。新しい広場をつくりながら、それを空っぽのまま渡してもしょうがないので、それを実践できる人材を発掘して育てるためです。会議には「つくる会議」と「つかう会議」の2種類があります。「つくる会議」は専門家の会議ですが、「つかう会議」は市内で活動しているNPOや、サークルの人に声をかけ、活動についてのレクチャーをしてもらい、そこで出会った人たちの間にシナジー効果をつくり出す場です。このプロジェクトでは、アトリエ・ワンにバイトに来ていた一人の若者を、プロジェクトマネージャーとして市役所の職員として雇ってもらい、行政と市民と我々の間のつなぎ役になってもらった。彼が町の中に入り込んだから色々なことが上手くいきました。「つかう会議」や住民説明会で出た意見に対しては、社会実験による検討を重ねました。例えば、三角形のロータリーは渋滞の原因になるという懸念に対し、大きな駐車場を借りてロータリーを描き、バス会社や乗用車に実際に走ってもらい、問題無いことを確認しました。また、市内に残る雑木林を管理するNPOと出会ったことから、ロータリーの中央に雑木林を移植することになりました。雑木林の広葉樹は20年毎に地面から1mぐらいのところでばっさり切ることにより、陰樹の林に移り変わらないようにします。切った株からはひこ生えが出て、また育って行きます。そういう長周期のリズムを駅前に持ってこようというわけです。駅に降りたら雑木林で、20年に1度伐採祭りみたいなことをやる。駅前の商店主の落ち葉の掃除が大変という意見に対しては、ボランティアを組織して対応しようとか、一つのアイデアがまた別のふるまいも生んで行くことが大事です。屋根を支える柱も、雑木林の木が一本一本違うように、束ね柱の原理を共有しつつも場所によって頬杖としての展開の仕方が異なっています。
バスレーン前の屋根の下にはベンチがあります。ここに毎日来て座っておしゃべりしている老人達がいます。彼らはバスを待っているのではなく、バスを降りてくる人待っていて、知り合いを見つけては話しかけているようです。天井は県産材のヒノキ板乱貼りです。小さなダウンライトが道路境界のところを照らしていて、運転者から歩行者が良く見えるようにして、安全を確保する性能設計です。これは照明の角館さんが頑張ってくれました。
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