平沼:

建築家のマイノリティというか、主観的な話でもいいですし、自分を客観視してでもいいですし、個の建築家としての自分たちの個性はどんなところにあるか、聞かせてもらえないですか。

伊藤:
さっきの薬局の話だと、郊外の薬局には今の社会問題が象徴的に表れているところがありまして、例えば車を使って薬局に来る人も多いのですが、周りには高齢の方も結構多いんです。そういう人たちは皆、徒歩圏の人が近くの病院に行って寄っていくという方が多くて、お年寄りから見たら横光景という視点にあって、ロードサイドから見たら車を使って人が来る状態があるので、そういうところで僕らは問題を見つけて、ある程度建築に問題を取り込みながら提案できたのではないかなというのがあります。具体的な計画に絡めてしか、僕の場合は総括的に言えるような立場ではないんですけれど・・・。
香川:
何か根本的に違うというよりも、同世代の人には多く共感するところもあると思うんですけれど、さっき言ったように個人的には建築の可能性を広げたいと思っていて、それはいろいろ方法があると思うんです。伊東豊雄さんのように大規模プロジェクトで建築の技術的な可能性やコンピュータでできる形態だとか、そういう可能性を広げるという考え方もあると思うんですが、今、建築は二極化していて、大規模プロジェクト、例えばドバイに建てるような仕事と、その反面にもっと小さいところで建築の建てることのリアリティがすごく離れています。日本の仕事の多くは後者だと思います。また、いろんな分野でコンピュータや情報工学というものへの注目が集まる中、社会からの建築への興味が失われつつありますよね。昔は建築って、社会にとってもっと重要だったじゃないですか。帝国をつくるときには、まず都市をつくる。それで社会のシステムをつくってきたはすです。快適な空間を、快適な住宅を、ということ以外に、もう少し建築が扱える方法を増やしていく。そうすればもっと建築が扱える問題や可能性が増えるのではないかと思っています。
平沼:
何か僕たちに質問をください。
香川:
今年一年、芦澤さんと平沼さんは若手建築家を5組招いてきてどのように思ったのか、逆に質問をしたいです。
平沼:
そうなんです。今日は今年度の最終回なので、総論をしないといけないですね。
どうぞ、芦澤さん。
芦澤:
5組のお話を今年一年間聞いてきて、それぞれの視点で違う何かをトライアルしようとしている視点がすごくあって、そういう意味では、僕らも歳もそれほど変わらないし、ある種一緒なのですけど…面白いんだけど、自分も含めてもっと頑張らないといけないとは思います。
でも、建築ができること、建築にしかできないことは僕は絶対にあると思っていて、それもそれぞれがもっと推し進められるような環境がつくれるといいんだけど。これは自分に対して言っていますね。(笑)
そういう議論の場を、少なからずこうしてできたのは良かったと、個人的にはそう思っています。
平沼:
すごくいい質問を今していただいたじゃないですか。この機会に質問返しを先にしてしまって申し訳ないのですが、どう見えているんですかね。芦澤にしても、平沼にしても。きっと、うっとうしいですよね。(笑)
香川:
うっとうしいとは思わないですけど。(笑)
僕も東京にいたからかもしれないですけど、あまり近い世代が見えていないんですよね。だから、大阪の若手と言ったときに、最近では交流はあるんですけど、いまだに皆がどう考えて、どういう教育を受けてきたのかというところがあまり分かっていないところがあるので、芦澤さんや平沼さんから今の大阪の建築界についてどう見えているのかは聞いてみたいです。だから、逆にこういう機会にプレゼンをしてもらって、聞いてみたいと思ってはいます。
平沼:
なぜそんなことを聞いたのかと言うと、この217という会は、一番初めのdot architectsさんから始めて、今日会場におられる木村松本さん、SPACESPACEさんなど、5組の方にゲストに来ていただいたのですが、僕も芦澤もあんまり世代が違うとは思っていなくて、3つくらいの少しだけの歳の差なので、あまり上の世代という意識をもってお呼びしたわけではなかったのですが、ただ話を聞いていくと、何て自分たちは老けているんだろうというような、発想の源がどうしてもパブリックな方向に向きすぎていて、私的な方向にいくことを忘れがちだったのかなと感じていました。もうひとつは、つくり方の方法が、僕たちの方が建設的で、合理的なやり方を含めてプロセスをつくっていってしまっている、これは芦澤さんと僕はちょっと違うのかも分からないのですが、そういう側面を見直すことができて、すごくありがたかったというのが正直なところです。
芦澤:
関西の上の人たち、って言うと怒られるのかもしれませんが、何やかんやで空間・モノ主義というところがあって、僕もそういう事務所にドンピシャでいましたから。(笑)
やっぱりその影響力は受けてしまっているんです。僕は早稲田にいたといっても石山さんだし、彼の場合は単純にモノということでもなくて両極を持っていますけど、平沼さんが言ったように、ちょっと僕らは古いのかなというところは自覚していて、でもだからいいんだぜ、みたいなところも勝手ながらに思っている、あるいは信じながらやっているところはありますね。
香川さんが今日お話ししてくださったように、建築の可能性、建築にしかできない新たなポッシビリティを探していくというのは、僕もすごく興味があるんだけど、やっぱり空間で感動を与えたいという願望はあって、見たことがない空間をつくってみたいとは思っています。それってやっぱり最終的なかたちに落とし込んでいく、空間につながっていくところだと思うんですけど、これは一概に世代でということは言えなくて個人差があることだと思うんですけれど、僕はそう思って、その辺のバランスをどうとっていくかということはそれぞれの意見を聞いたりする中で、平沼さんと僕も、それぞれにスタンスが違うなと感じていました。あ、オチはないんですけど。(笑)
香川:
芦澤さんは、やっぱり感動する空間を目指している人だと思います。逆にそのようなことを目指している人がいるから、僕はこういうふうになったのかなという気がするんですけど。
僕は、東工大だからかもしれないですけど、住宅に感動は必要ないと思っていて、住宅を一回見て感動したとしても、それよりはこれから何千日、何万日と住んでいく日常の方が大事だと思っているので、空間というより、誤解を恐れずに言えば、デザインというのは技術だと思うんです。技術的なことを扱うのがデザインだという意味では無くて、ここで言う技術というのは、建築なり言葉なりで説明可能で、なおかつそれらが他の人にも使える汎用性をもっているということです。だから、僕が提案したものが、他の人が使えるデザインであってほしいと思っています。
平沼:
建築家とは、どんな職業ですか。
香川:
技術者ですかね。技術者というと誤解を生むかもしれませんが、今言ったような技術という意味で、開発者や発明者と言ってもいいかも知れません。
平沼:
ありがとうございました。最後に、SPACESPACEさんに大きな拍手をお願いします。(拍手)
最後に少しだけ、芦澤さんと総括をしたいと思います。

芦澤:
トータルの話で言うと、年間5回開催させてもらったのですが、そもそものきっかけとしては最初、第一回目のときにもお話したのですが、関西でなかなかこういう機会がなかったので、あるにはあったかもしれませんが、もう少しそれを深める機会をつくっていこうと思って、飲みながら始めた企画でしたが、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
平沼:
実は、今日資料としてお配りした封筒の中にDMが入っていますが、今年ゲストに来てくださったdot architectsさんからSPACESPACEさんまで、展覧会をやることになりました。昨日、展覧会をオープンされたばかりの木村松本さんが今、会場にお越しくださっているのですが、東京の青山にあるプリズミックギャラリーで、関西若手建築家展覧会シリーズと言うことで、一ヶ月単位で今年の11月くらいまで皆さんが発表していきます。また東京に行く際には是非見てください。
木村さんたち、少し展覧会についてお話してくださいますか。
木村:
ありがとうございます。木村松本です。
今回、展覧会として木村松本建築設計事務所展、メインタイトルに「他人の庭」という名前をつけています。「他人の庭」というのは、公共の問題や領域性など、いろいろなキーワードを含めて設定しています。そこから様々な展開、作品だけでなくて活動までも含めて触れられるような構成を考えてつくりましたので、是非東京までお越しの際にはご覧いただければと思います。
平沼:
ありがとうございます。
あと、来年度の217は、会場が変わります。心斎橋の近くのインターオフィスさんという、岸和郎さんがつくられたショウルームで開催することになります。よろしければ、是非皆さんお越しください。
司会:
それでは、これをもちまして本日の217を終了いたします。
最後までご清聴いただき、ありがとうございました。

 
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