平沼:

では、最後のプロジェクトにうつっていただきます。

香川:
三重県の鈴鹿市にある調剤薬局の新築です。さっきと違って、だいぶ閑散としているところです。そこそこ敷地も大きいのですが、建物と建物の間がだいぶあいているような地域です。
現薬局はこういうものです。この隣が次の敷地になるのですが、調剤薬局なので、病院で処方箋をもらって薬局で処方してもらうので、必ず病院がついているんですが、病院の増築計画があって、それに巻き込まれて、ここに移転しようという計画でした。
まず何を考えたかと言うと、幹線道路沿いの駐車場と建物の関係はすべて一緒なのです。地方に行くと、車で移動することの方が多くなるので、建物があって、その前には必ず駐車場があります。そこで、郊外特有の駐車場と建物の関係について、何か提案できないかなと考えました。要は建ち方としては、コンビニであろうが薬局であろうがオートバックスであろうが、すべて同じなんです。それに対して何か言えないかということを考えました。
建物の前に駐車場ながあります。薬局内部でのオペレーション、患者さんの動線をどう入れて、薬剤師さんがどう受け答えするかということに新しいチャレンジをしたいお施主さんだったので、人の動きと車の動きをどう分けるか、それをどうコミュニケートしていくかということを考えました。
これが模型ですが、白線が花柄になっています。これはトラフィックペイントというもので、車の速度表示などをしている白線です。花柄が点線になって、これをガイドに車を停めます。一部、線が重なっているのですが、あるところまで停めると普通車用で、ここまでいくと身体障害者用の駐車場は少し幅が広いのですが、そういう場所になっていたり、花柄が集まった箇所があるのですが、たぶん人間はそういうものがあると何となく気にして踏まないので、それを交わすようにして人の動線をつくれないかと考えていました。
このお施主さんは太陽光発電に興味を持たれていて、ソーラーパネルを付けたいと言われました。住宅の場合は、蓄電性効率が悪いので、要は電池として全てを貯めておけないので、つくったものをそのまま売るようになってしまうのですが、店舗の場合はほとんど昼しか電気を使わないので、発電したものをそのまま使えるんです。ソーラーの発電効率はまだまだ高くないのですが、この場合はお施主さんの強い希望もあって、屋根の上には全面にソーラーパネルが載ってます。
まず、花柄で人と車の交通計画をつくって、等間隔に花柄の柱が立ち上がってます。初めに花柄でつくった交通計画から柱を立ち上げ、架構の問題に繋がっていきます。花柄の柱であっても断面的な性能は計算出来ます。要するに、どういうかたちの柱をつくろうが、床の模様の問題が、数値を介して加工の問題に置き換わるということになります。
これはモックアップです。断面は原寸で、長さが短かいものをつくってもらいました。この柱を技術的にどう作るのかということを一番検討したのですが、まずは金型で押出すような方法を検討しましたが、それをやると金型だけで1000万円くらいかかるんです。金型で半分くらいの予算額を占めてしまうので、それはないだろうということになました。結果的に鋼板の曲げ工場と建具屋、2つの業種で加工しました。
これが工事風景です。鉄骨の建物の柱はコンクリートの柱脚にボルトで留めるんですけど、そのような柱脚が出てくると花柄を立ち上げた感じにはならないので、基礎に段をつけた状態で柱をボルト留めして、もう一回コンクリートを流し込んでいます。柱上部の接合はプレートを取り付けて、梁と接合しています。
これが竣工写真です。CGみたいに見えますが、床に花柄の交通を規制する点線があって、部分的に少しだけ立ち上がるとそれが車止めになったり、それが中まで続いて柱になったりしています。
これが軒の部分です。ソーラーパネルというのは、南側に角度をつけると効率が良いので、一部傾けて、反対に北側から間接光を取り入れるハイサイドライトをつけています。このハイサイド内部を空調ダクトに使っているので、この屋根は結構うすくて厚さが200〜250ぐらいなのですが、天井内部で空調ダクトを納めています。
この計画では外構をまず決めているんです。駐車場の台数割や外構の詳細を決めるのって、建築の設計でも工事上でも最後の方にやるじゃないですか。実際にこのトラフィックペイントをひいたのは工事の最後の最後なんですけど。このように、工事の最下層、一番最下位に決めるようなことを一番初めに持ってきて、計画におけるプライオリティを上げると、どういったことが可能になるかというと、このトラフィックペイントは後で消して書き直せるんです。だから、まず初めに交通計画を決めて、それが計画のスタートになるのですが、それは後で書き直すと、そもそもその計画がもう一度やり直せるというのが面白いのかなと思っています。PCソフトって、後からアップデートが送られてきて、当初のものからどんどん変わっていきますが、建築でもそういったことを考えた方が良いのではないかという気がしています。
平沼:
岸上さん、いかがですか。
岸上:
この薬局のトラフィックペイントで人を誘導するという話は、この前もサインをやったコンペのときにもやっています。トラフィックペイントを使って人を並べたり、人を誘導するということをやっていて、それは実際にそういうことを行うと人がどれだけ誘導されるのかということを実験的に行いました。このときは円のようなものを描いたのですが、人はやっぱりそれに誘導されて並ぶということがわかって、ここでも発展形としてできないかなというのがありました。
平沼:
芦澤さん、いかがですか。
芦澤:
話を聞いて、ランドスケープ的な、香川さんが最後に言われたように、僕らがついつい後回しにしてしまう要素をカットしてやるという手法は、新たな視点が取り入れられるので、すごく興味深いところですね。ただ、この駐車場というライン的なルールが建築空間にどれだけの影響が及ぼしているのかというのがちょっと分かりづらいかと思います。あと最後に言われていた、設定そのものを消して更新できるということを言ったときに、でも建築はそのルールでつくられた以上は、それはすごく重くて残ってしまうのではないかと、そういう危惧を感じたのですが、その辺りはどうでしょうか。
香川:
空間をつくるというよりは建築を使って、小さくは薬局の動線の問題なのですが、大きくは郊外の店の前に必ず駐車場が出てくるという状況に対してどのような提案を行うかという方が大きいです。例えばもっと敷地が大きかったら建物を前に出して駐車場を後ろに回すこともできるのですが、やはりこの薬局のような配置の建物の方が圧倒的に多いですよね。そうであれば、必ず建物の前に駐車場がきてしまうという状況の中で何ができるのかを考えていきたいと、まずは思いました。それは空間の問題というよりは、構造も交えた建築のつくり方の問題だと思います。
柱は消せないですよね。つまりルール事態は完全に消せるのではなくて、更新が可能だということだと思います。僕はそういうのを冗長性と読んでいるのですが、柱が残ることでそれをガイドにして引き直せる定規のようなものとして機能するのではないかなと思っています。

>>続きへ
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | NEXT