平沼:

では、早速作品を見ていきましょう。

香川:
2002年から始めて、ちょうど会社を辞める2006年くらいまでにコンペや展覧会の活動をいろいろしてきたのですが、これはその最後にやったコンペです。長野県の塩尻というところの、平たく言うと複合施設なのですが、その当時はコンペのタイトルに「塩尻コミュニティ・コア」という名前がついていました。審査委員長が山本理顕さんで、応募数は300ちょっとくらいで、最終5案まで残りました。僕はこれを最初の仕事にしようと思っていたのですが、負けてしまい、こないだ柳澤潤さんが実施で建てました。
これがA1サイズのプレゼンテーションシートなんですが、当時、会社が11時くらいに終わって、3時とか朝の5時頃までこれを2週間くらいやっていたので、会社時代の最後、一番苦しいときでした。
敷地がこういうところで、この範囲全体が敷地なのですが、前に商店街があるんです。商店街と言うとアーケードがかかっていそうなんですけど、アーケードのない、まばらに商店がつながっているようなところで、近くにあった塩尻駅からずっと繋がっています。
裏側に見えるのは庁舎なんですけど、前に大きなショッピングセンターがあって、その中に地域活動の拠点となるような交流施設のような提案を、というのがお題でした。
交流センターと言ってもいろいろあります。ここで要求されたのが、まず図書館、それから高齢者、子供が使う施設、公民館的な機能と、それから貸室というか、カルチャーセンターのような機能など、いろいろな機能が要求されました。図書館に来た人がそれ以外の活動を見ることが出来て、そこにいる人たちに何らかの活動が起こってほしいといった意図からコミュニティ・コアというタイトルをつけたようです。
これは概念図なんですが、平べったい棚があってその中にたくさんの活動が行われるのですが、太鼓橋やタワーから、埋もれたいろんなアクティビティを見渡すということを考えました。情報空間の中にはいろいろな情報がばらばらにあるんだけど、とりあえず検索ができれば成立するということがアイディアの元になっています。
もうすこし具体的に説明すると、図書館の機能が主に1階にあって、2階に公民館的な貸室機能があります。それをどう検索するかですが、まず1.5階と呼んでいる階に道路網を張り巡らします。大通り、小通りを張り巡らせて、先ほどの棚のような状態をつくります。この通路を歩き回っていると、1.5階から1階を見渡すと下の機能が見えて、2階を見ると上の機能が見えます。これで、全ての活動が網羅されます。1.5階は太鼓橋に直接アプローチします。次に、より検索性を上げるため、海外のように道を単位にした住所を付けます。情報空間にあるような検索性と、本屋に行くと目的の本以外にもいろいろ探し回りますが、そのような実空間にある遭遇性、その二つをこの建物で実現しようと考えました。
これが大通りと小通りのイメージです。このように「通り」があって、下に活動が見えてきます。
太鼓橋から上がっていって、上と下に活動が網羅的に見えるようになっています。
これは模型です。そのほかにビジネス支援センターという、滞在活動でがきる場所という機能があって、それとの関連も求められていました。
このように全体は、1階と2階と1.5階があって、実際には3層になっているのですが、3層の上に集合住宅が載っているというような建物です。
パース、アクソメです。うちの事務所ではコンペの際によくアクソメを描くんですけど、ピンク色に塗っているのはさっき言った「通り」の部分になっています。図書館の中に入ってさらに高台になっているところに上がると、図書館では分類方法が決まっているのですが、上から見渡せるようになると、分類が見えてくるような計画です。
公共施設をつくる市や町といった団体は、僕ら建築用語では複合施設と呼びますが、彼らはこういうものを合築と呼びます。図書館の近くにホールがあるということは幸福な複合が生まれてくるかもしれないと、幻想かもしれないんですけど、僕は組織設計にいたのでそういったものをどういうふうに捉えるかというリアルな感情が分かっていたので、各々の管理上の機能は完全に切り離せるようにしました。
真ん中にこういう大通りがあるんですけど、学習室は貸室としても使えるし、図書館に来た学生が受験勉強をする自習室としても使うので、そういうものをなるべく真ん中において、共有できるものだけ共有するレイアウトを行いました。
下階の図書館などのコミュニティ機能とSOHO機能との関係を持たせてほしいという要望があったので、ここに住む人がコピーやファックスなどを、遠くにあるコンビニまで行かなくてもこの場所で使えるというような、ビジネス支援機能を考えました。
このコンペもそうでしたが、実施コンペで住民参加型の何かを提案してほしいと求められることが最近多いです。
というのも、建築家が何か提案をして、偉い先生がこれを建てようと決めるのでは、住民が置き去りになって、かつての行政がやってきた箱物建築を繰り返してしまう。そうではなく、建築をつくる過程でそこに住む住人が、建築に関わっていける仕組みをつくらなければいけないという雰囲気になってきたと思うんですけど、そこでワークショップとして、通りに名前をつける、ついでにこの建物以外にも、街中の道に名前をつけるという提案をしました。社会実験レベルでは既に日本でもあるようです。
また、昔のコミュニティはみんなが街の道路を汚すのではなくて、互いに道路を掃除して掃き合って、ということをしていました。施設運営において、町単位で施設内の通りのイベントや掃除を持ち回りでやるということを住民参加として提案しました。
芦澤:
アクソメやパースがすごく分かりやすくて見ていましたが、いくつか質問があります。
こういう通りをつくって、いろんな機能をコンピュータのように検索できるということですが、そのゾーニングというのは、たとえば街との絡みとか、何かルールをもって決めているんでしょうか。詳しくは分かっていないのですが、いくつか機能があるんですよね。
香川:
ルールというか、図書館が下にあるというのは、使いやすさの問題です。図書館が一番モノを出し入れする場所ではないかと思うんですが、車の搬入が一番近い方がいいのかなという実務的な決め方をしています。個人的な意図としては、何がどの様な順序で入っていてもいいと思ってます。カルチャーセンターなどは活動を場所で特定出来ないですし、活動がばらばらであってもそこで検索できるシステムがあればいいと考えています。
芦澤:
あとちょっと気になったのが、上が居住スペースなんですよね。そこと下の絡みが、建築計画を見ているとあんまり感じられなくて、それはプログラムとしてある程度切り離さなければいけないというものだったんでしょうか。上の居住している様子も一緒に見れたりすると、楽しいかなと思います。
香川:
何か絡みがあっても良かったのかもしれないですけど、最終案で残っていたものは、ほぼ切れている案でした。僕の意図としては、1階と2階と1.5階はとにかく商店街とつながっていくスペースで、商店街の活気を吐き出せるような場所でないといけないと思っていて、逆に住居部分というのは上にあるので、街並みの密度感とつながっていけばいいかなという気がしています。用途上はいろいろつながるんでしょうけれど、多少切れていた方がいいのかなという気がしています。
芦澤:
密度感というのはヴォリュームの密度感ということですか。
香川:
そこだけ高密度になりすぎているというのは、街の景観につながっていかない感じがしたので、長野の塩尻という土地は東京ほど街が密集している場所でもないので、それに合わせた住宅のゆとりがないと、そこに住みたがらないのではないかと思いました。周りの方が安く借りれるじゃないですか。たぶん地方だと、一戸建てが月3万円くらいで借りられるんです。そちらの方が魅力的に見えてしまうのではないかと、そういう気がしています。
伊藤:
地権者の人もひょっとしたら住むかもしれないということもあって、あと周りの眺望が結構開けていて、山が見えたりするので、割と居住性を考えて配置しています。
芦澤:
では住宅部分は、周辺の街並みからすると、割と突出して見えるような感じですか。
香川:
そうですね。周りから見ると非常に高い印象があると思います。すごく上から見ると、同じくらいの密度に見えるかもしれませんが。人口密度の話になると、数字上はたぶん同じくらいです。

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