平沼:会場から質問ある方おられますか。

会場1:建築意匠設計の仕事をしている、カミフサといいます。2点ほどお伺いしたいのですが、1つ目は今日お話の中で、プロポーションのお話がでてきたと思います。それは建築家がすごく一生懸命やらなきゃいけないというお話があったので、まずそのプロポーションに関する齊藤先生のお考えを聞かせていただきたいです。2つ目は先日出された『日本建築の形』という本があります。この本で選ぶ建物の種類、数は限定されてくると思いますが、どんな形、どのような意図でこれらの建築を選ばれたのかというのをお伺いしたいと思います。

齊藤:後の質問からいうと、大学の先生に連れられて、これはなになに時代のなになに様式ですと説明されたってそんなの面白いですか?そんなことより、そこへ行ってお願いをして、自分で掃除させてもらうのです。できればそこで使っていたであろう室礼のものを美術館から持ってきて、そこでお茶を立てたり、お酒を飲んだり、昼寝をしたりしないと本当の事はわからない。本をつくるにあたって、この建築は日本人が誇る最高の物だといえるもの、これ一冊あれば日本の全てはここにあるんだ、というものをつくりたくて25年かかりました。なぜなら、修理中で5年待って、7年待って、という事もあるし、『いかにして良い状態の時に入っていくか』という事もありますから、時間がかかりました。 次にプロポーションについてですが、僕は金閣寺をとっても美しいと思う。だけどなぜ美しいかを解説した人がいなかった。誰も教えてくれない。本の中に書いてある図面は私のところで書いたもので写しではありません。図面を書いてみると、設計者はこういうふうにして美しい金閣寺をつくろうと考えたんだな、というのが見えてきます。それはいつのタイミングで考えたのか。建てようと発想した時に考えたのか、それとも徐々に設計を進めて行きながら調整を取っていったのか。そういうことがあの本に載っています。調べてみたら縦と横の比が1:1なんですね。それに√3が庇の長さで少し入っているだけ。素数は1を抜いた2、3、5、7、9と言うけれど、その数字が小さいほど美しい建築になります。スペインのバルセロナにあるアントニ・ガウディの教会は、平面図も立面図もディテールも全部2:3。でも、もっと凄い物が日本にあり、金閣寺は1:1で出来ているのだという事です。だから茶室も、ただ真似して柱と壁を作って天井高はどうしたらいいんだ、決まりはこうか、とやっていたって美しくはできない。壁には綺麗なプロポーションを組み合わせ、その壁と壁の中に美がある。そういった茶室の解析も今までなかった。国宝の如庵と待庵が載っています。竹や木の節の位置まで計算されている。見る人が見れば、あの本は宝箱です。何か新しい事をやろうとしたら、古典に答えは99%ある。それを見抜く力、見抜く目ですよ。そこに旅をすれば必ず自分のものはある。何を引き出したいのかというものがまずそこにないと、と思います。写真は、記録のために撮るとか記憶のために撮ることが多いけれど、私のはそうじゃない、ここがこんなに新しいんだ、こんなに光っているんだ、と言いたい。だからあれは全部、今であり現代です。現代を超えて未来に行ってもらいたいと思っている。それは見る人の力次第です。

平沼:このレクチャーの最後は、みなさんに、建築家とはどんな職業ですか?という事をお聞きしているのですが。

齊藤:建築家、法律家のように『家』が付くのは、そこで一家(いっか)を成すという事です。だから建築家というのは、自分が提案する建築、自分の考え、宗教や哲学、芸術、それらの総合的な事を自分の心の中で咀嚼をする。それを、建物を作るという技術を使って、表現する、それが建築だと思うんです。それで生きていける人、一家を成すまでをできる人が建築家だと思います。


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