西沢: 妹島さんの影響もあるのですけど、環境から建築を考えることと、人間がどう空間に挑むかというところから建築を考えるところがあります。でも、その二つがやっぱり往々にして分離しあう、環境との関係は外観で考えて、人間の使い方のことは中で考えてみたいな、なんとなく建築家は一人なのに分業しているのが自分としてはすごく違和感がありました。どのプロジェクトでも、いろんな案を検討しますが、どの案を最終的に選ぶかというとやはり 環境と建築の関係ということと、人間 と建築 野関係 ということが一致する、一つのことに感じられる ような案が出て来たときに 、 その案 で行こうとなるように思いま す。
ここでは、 周辺環境に合わせて作ろうと、自由曲線を用いました。直線のない大自然のカーブの世界で、カーブした線で空間をつくることで、ただのカーブじゃなく、円弧とか放物線という数学的なカーブじゃなくて、この手書きのカーブみたいなものですね。それが一番等高線に近いじゃないかと、こういうような自由曲線のカーブでワンルームを作りました。直線とか正円でつくると、地形をそれに合わせて形を変えないといけないですが、逆に自由曲線の場合は地形に合わせて建築の形を変える。 それが建築の個性になる。 もともとここは棚田があってここに泉がありましたけれども、その泉の上に建てることで、内藤さんの作品が、床から水が湧き出てきて泉がどんどん大きくなってくる泉の作品で、床がキャンバスになるということでした。床を中心にした空間をつくろう、というところはあったと思います 。また、 水滴という形に おもしろさ を感じたりもしました。たとえば 、正円は、少しでも歪めると正円じゃなくなり、楕円とか、違ったものになります。しかし 水滴という形は多少形がかわっても水滴でありつづける。形が変わってもその属性が失われない という不思議な柔らかさを、概念レベルで持っているのは、僕は面白いなと感じています。水滴とか自由曲線とか色んなことを言っていますけど、とにかくある種の柔らかさに向かって、進んでいるわけですね。
構造家の佐々木睦朗さんとのコラボレーションでやっているのですが、コンクリートのシェルストラクチャーでつくるということになりました。長辺 が60mぐらいで短辺が40mぐらいのスパンを 、柱とか壁に支えられずにジャンプしています。普通シェルはもっと 高さをとって作るほうが構造的には安定します 。 もっと大空間のほうが構造的には合理的なのです。しかしここでは床が中心の空間にしたいということと、あの地形との関係をあの中にいても感じられる意味では、大空間というよりは、水平方向に伸びていくような空間にしたかった。構造の限界でもあるのですけども、高さをすごく落としています。これは室内のコンピュータグラフィックで書かれた絵ですが、コンクリートシェルストラクチャー、シェルは貝殻で、面内が全て圧縮だけで成り立つ構造体です。どうしてそれにしたかは色んな理由がありますが、一つは低いドーム状の形を作るのに一番向いていたという事、土を使って型枠をつくるということです。基礎を作った時に出てくる土で山をつくり、それをメス型にして、その上にコンクリートを打って、あとから中にはいって土を掻き出して空間をつくりだすというものです。3次曲面になるので、ベニヤ型枠を使うと、一個一個にカーブを加工しないといけないので、お金もかかる。今回の場合は高さを低くしたこともあって土で山をつくったほうが早いですし、土でメス型をつくると型枠のサブロク板のジョイントが出てこない。コンクリートで、そのまま一つでできるスケールのない世界をつくれる と思い、ベニヤ型枠じゃなくてこの土型枠というものにチャレンジするわけです。ちなみにこれは僕のアイデアというよりは施工された鹿島建設の豊田さんという、直島でいろんな安藤さんの建築やられてきた、スーパーマンみたいな方がおられ、彼の発案でやることになりました。 大自然の中でどういう建築を作るかというときに、 突然ビルが建つ違和感 はよくないと思って、ここでは建築じゃないものというか、丘とか、坂とかみたいなものを目指しました 。たとえば横に棚田があるのですが、人工的なものですけど非常に自然にあっている。ああいうようなもの、半分土木のような、ランドスケープ的な微妙なものです。そういうのもあって、下げて、ランドスケープ化しようとしていたんだろうと、今にしてみると思います。コンクリート打設が一時にやることですごい工事になりますけど、真ん中は22時間ぐらいかけた大きな工事で、ほとんど村祭り状態になるのですよね。
3交代か4交代制でやって、深夜でまだ真ん中あたりというところですね。ここにこういう内藤さんの作品のための穴があるのですけど、非常に大きい穴で、これは施工のみんなが、打設の後に中に進入して土を掻き出していく 施工用の孔でもあります。 |