藤本:ファンズワース邸もね、家っていう塊を透明にするときに、スコーンと間を抜いてしまって、でもまだ床とか柱とか残っている、それを残った物をさらに透明にしてやろうみたいな意識があったのかもしれないですね。この1/10模型もすごくて、オープンデスクの学生さんがつくってくれたんだけど、途中から当然、コンピュータで設計していくわけですが、画面って小さいくて、結局CADでは線しか見えくて奥行がわからないんですよ。
これがはたしてどんな空間なのかってよくわかんないよね、ってなってきて、ある段階で、1回はちゃんと実物にして模型で見ないと怖くてOK出せないということで、ぎりぎりつくれるサイズが1/10だったんです。2mmの木の棒で、4cmづつ糊付けしていって、組み上げて、あぁー、こういうものだったのか…ってみんな始めて分かったんですよね、この2ヶ月間がんばって作ってきたのはこういうモノだったのかって(笑)
そのあと紙のテープがついているのは、座標のナンバーをふってあるんですね。更に微調整していって、グリッドを付け加えたり、トリムしていったりして。最初は結構きれいな、なめらかにゆがんだUFOだったんですけど、それだと周りから見ていても面白くないし、中にはいっても面白くないなと思って、変なでっぱりとくぼみをつけたりして、どこから見ても、全体像がいまいちよくわかんないようなものにしたいなって思ったんです。あと安全性の問題もあって、上に登っていくじゃないですか、40cmも抜けているので、子供とか落ちる可能性あるよねとか。
あるいは、ロンドンのレギュレーションで、ある高さから1.1mのフェンスをつけなきゃいけないとかいろいろあって、全部クリアしていかなければいけなかったんですよね。実は、全部クリアにされていて、唯一皆さんに見えるのは、この手すりです。ここにフェンスは見えないですが、とても丁寧に、あまり大きい面に見えないように、デコデコさせながら1.1mの高さを確保しているというギャップがあります。それもさきほどの1/10の模型で、ここまでだったら大丈夫かな、ここは気づかれちゃうよね、とかを言って見ながら作っていきました。打合せは、ベルギー人のスタッフとサーペンタインギャラリーが、スカイプとか電話で、ほとんど怒鳴り合いをしていました。そういうやりとりをずっと行って、ようやくできあがりました。

平沼:会期の最終日行かれました?

藤本:行っていないのですよ。

平沼:そのとき実は僕、アメリカにいたのです。昨年の夏に、藤本さんからサーペンタインギャラリーのお話を聞いて、いつまでだろうと思いJFK空港で確認をしたら、その日、当日までだったので、日本行きに乗らずイギリス行きに乗って見に行きました。最終日の最終時間に現地に行ったので、相当な人がこのギャラリーの中にいて、カンデンスキーかダビンチの手法のような、重なりあう筆のスフマートのようになっていました。(笑) つまりこの写真にあるように、グリットに消えたり表れたりして、みんなが「かすれて」いるのです。もう地球の終りか、ここは。…くらいの勢いでしたよ。(笑)

藤本:(笑)天気が良く、僕の会期も長かったので、今までの14年間で一番人が来てくれたそうです。サーペンタインギャラリーを見ると、行きたくなるというより、なんだこれってなります。

平沼:とても評価が高かったです。どうしてそれほど評価が高いのだろうと思い、僕は批判でもしに行こうと思って実は行きました。(笑) 現地に行き、目の辺りにした光栄に唖然として僕が突っ立っていたら、横に小学生くらいの男の子がいて、2人で口をあけながら愕然としました。それほど人の群れやこの建築の状況がすごかったです。

藤本:その最終日に行ってくれていたのは嬉しいですね、あとで写真ください(笑)。僕は、オープニングの時と最初の2週間は現地にいました。ほんとうに人が大勢来てくれていて、向こうの人は楽しみ方を知っていますね、どんどん好き勝手なことをします。

芦澤:どのくらいの期間、スタッフの方はスタディをされていましたか?
 
藤本: 12月末にはだいたいのアイデアが固まりました。1月は、手すりの問題とか全部含めて、確認申請みたいなものを出さないといけませんでした。2月は実施設計。現場は、意外と建築の施工会社ではないです。イベントのインスタレーションをするようなところで、その前年にロンドンオリンピックのインスタレーションを全部行った会社です。彼らがかなりしっかりとしてくれていて、僕たちも1回モックアップは見に行きましたが、またそこでいろいろとクリエイティブに議論をして決めると、もう余裕でした(笑)。

芦澤:現場で変えたくなる気もしますが、それは事前にすべて決められていたのですか?

藤本:さすがに現場でこれは変えられないなと思い、諦めました(笑)。現場に行くと、あまりに線が多すぎて、少し施工がおかしいとこもありますが、もう分からないです(笑)。夜もすごく綺麗です。照明会社ともかなり喧嘩をしましたけど最終的にはとてもうまくいきましたね。

平沼:では次の建築にいきます。

藤本:これは、スケスケの家ということで有名になっちゃいました。サーペンタインよりも前ですが、段差で居場所を作ることを、リアルな家で実現できました。お施主さんが素晴らしい方です。お施主さんは、僕たちの建築を知ってくれていて、家の中でノマドみたいに、なにをするにしてもうろうろしながら生活をされるそうです。そのようなお話しされていて、なるべく解放的な方がいいと聞いたときに、小さい敷地なので、広いリビングをつくるよりもいろいろな場所を作った方がいいのではと思い、原イメージみたいなものが浮かんできたんですよね、それはもうお施主さんと話しているその間に浮かんできました。それを形にしてみたら、かなり家っぽくなくなってしまったので、これは面白いけどやばいかもなと思って、もう少し家らしいものも2つ加えて、3案出してプレゼンしました。そして説明が終わると、何の躊躇もなくお施主さんが、これがいいと選んでくれて、ええ!?これでいいのですか!?と(笑)、はいこれが一番しっくり来ますって言ってくださって。

芦澤:若いお施主さんですか?

藤本:わりと若い、僕より少し歳上のご夫婦です。すごく自分たちの生活に合うような気がすると、最初の模型で選んでくださり、その後、やりとりをしながら更に進化して、複雑になっていきました。

平沼:形態だけ見ていると、さきほどのサーペンタインの原案に似ているような気がします。

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