芦澤:ちょっと質問いいですか。もやーっとしたものを、あえてこの均等なグリッドの手法を使うっていうのは、なんなんでしょうね。

藤本:なんなんでしょうねぇ。(笑)僕たちもグリッドってちょっとベタすぎないかなって思っていたんです。実は今まで僕が20年前くらいに作ったプロジェクトで、基本ベースにしていたんですね。このときは35cmの段差で、人の居場所、人がいろんなふうに自由気ままにいられる場所が建築なんじゃないかなって当時は考えていて、それがランドスケープのようでもあるし、家具の重なりのようなものでもあるし、好き勝手に動きまわれるみたいなものだったんです。

芦澤:うん。

藤本:このときも結局均等割りにしていて、ほんとはもっとゆらゆらさせられるのになって思いながら、でも本当にゆらゆらを作ると、収集がつかなくなっちゃうようなところがあって。最終的にこのグリッドがすごく良かったですね。なんというか、建築基準の古き良き、新しい、命を吹き込むみたいなね。グリッドってギリシア時代から、あるいはそのもっと前からずっと存在しているもので、それを、今までとは全く違う小さなスケールで重ねあわせることで、とてもストレートで硬いんだけど、同時にすごく柔らかい。この両義性みたいなものが、最後はおもしろいんじゃないかなーと思っていましたね。

芦澤:あえてその古い手法を使ったというところがポイントなんでしょうか。

藤本:そうそう。なんとなくね。今日は絵をもってこれなかったんですけど、このパビリオンの半年くらい前に犬のための建築を作ったんです。犬小屋なんですけど、それがグリッドだったんですよね。

芦澤:へー。

藤本:犬の物と人間の物を、一緒に置いておける棚みたいなグリッドに、犬がなんとなく囲まれていたら、飼い主とのコミュニケーションが生まれるんじゃないのかって話から、すごく細い6mmとかの材でつくったグリッドだったんですけど、それをつくった時に、はじめてピュアにグリッドを使ったんです。クラシカルでありながら、面白いなと思って。それがたぶんどこか頭の片隅にあって、だけどこのスケールでつくると、何千個のグリッドが重なっているので、何か新しい。だから僕が結構好きなのは、先ほどのアインシュタインの話に重なるんですけど、とても当たり前なものとか、昔から人々が慣れ親しんでいるものが、新しい意味を持ったり、新しい見え方をしたり、新しい価値を生み出す瞬間は、「あっ!」と思うところがあるような気がして。だからグリッドどうしようかなって結構悩んだんですけど、最後はそういう古典性と新しさという両方を繋げられるんじゃないかと。

芦澤:これも歴史と未来の接続…?

藤本:そう言っちゃうとなんかでも…、(笑)

芦澤:あはは(笑)

藤本:自分で言っちゃうと嘘くさくなっちゃうかなとか思いながらも、そういう意識はありました。

芦澤:なるほど。

藤本:最初はあまり深く考えずに、たくさん模型をつくっていたんですね。

芦澤:うん。

藤本:具体的なプロセスの話をすると、インスピレーションは2つのところから来ていて、ひとつは、プログラム=カフェ。カフェって、人が一番いろんな風にその場所にいられるように思って、別にカフェテーブルに座っていなくても、公園だし、芝生に寝転がっている人もいるし、そういう意味では、いろんな形の居場所をここにつくれるといいなと。あとは、まわりがすごくきれいなグリーンなんですよね。それをなんとか、対比的に楽しめるようにうまく関係をつくりたいなから始まって、最初はフランクゲーリーみたいにぐにゅーってした、ランドスケープみたいなものになって、寝転がったり座ったりすることがしやすくなるかなと思いました。

平沼:うんうん。

藤本:結構メビウスの輪のようなランドスケープを考えていたんですけど、実現化を考えたときに、鉄板かな、コンクリートの板かなとかいろいろ考えたんですけど、いずれにしてもまわりのグリーンをブロックしちゃうじゃないですか。

芦澤:うーん。

藤本:そういう巨大な面が透明になればいいんじゃないのってなって、透明になるにはいろんな方法があると思うんだけど、この厚みをもったランドスケープをグリッドに全部変換していったんです。物体を空間に変換していくっていうんでしょうかね、なんていうんだろう。

芦澤:うん。

藤本:メビウスの輪みたいなもの中に隠れている、このグリッド格子みたいなものを取れるだけ取り出して、あとは全部スコーンと、透明にしちゃう。こうすると、中から周りのグリーンも見えるし、また厚みよってはこの見え方も変わるよねみたいなことがその時に出てきて、だからグリッドという意識ではなく、なんとか透明にしたいなって思ったところから出てきたんですよね。

芦澤:話のコンテクストを聞いていますと、なんかファンズワース邸をぐっとなんか押し進めたような、そんな印象を持ちました。

藤本:確かにそうですね。天井と床ともうひとつのスラブが強くあるけども、あれを更に微分していってどんどん透明にしていくと。そういえばこのスラブ積層のプロジェクトは20年くらい前にやっていたんですが、35cmくらいの段差でなんかできるなってわかってきたんです。ファンズワース邸のプランをスチレンボードに張って、その上にスチレンボードの3mm板でだいたい3.5cm、35cmくらいになるから、それでトレースしながら乗り越えるみたいなことをやっていたんですよね。

芦澤:うん、うん、なるほど。

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