倉方:さて、次に行きましょうか。ここから平沼さんの最近の作品を中心にお話をして…

平沼:5分か10分お話をするくらいで、とっとと終わります。

倉方:これからの話の糸口として、お二人に作家としてお話しをしていただきましょう。

平沼:この写真綺麗でしょ? 遠景で見る山って結構、美しいんですね。こういう風景で山をみるときれいだなーとか、心地いいなーっていう風に思って、そんな風にしか山や森を見ていなくて、いざ、山の中に入ったら、すごく荒れていたんですよね。木が光合成するためには、木と木の間隔を空けてあげなくては育たなくて、間伐をするんです。でも深い山の中で間伐すると、山の中に運搬する道を付けなくては、人の手で下ろすくらいしかないのです。でもこの間伐した木材は、小径木のものがほとんどで、細かったり、曲がったり、しているものですから、下ろしても買い手がいないのが現状です。そうなると、いい木を育てるために、間伐はするけども、山中にはこうやって間伐された木が放置されている。その放置されている木の下は腐っていて、山の動物が下敷きになっていたり、風景ではみえない山の現状を8年くらい前に目のあたりにしたんです。この上に生えている木は、結構良い木があって、銘木って言われるような木で、たくさん建築材料に使われてきたものです。でも、僕らの時代には棟梁や、宮大工といわれる巧みな木造大工の成り手が少なくて、これまでの数寄屋造りや伝統木造をつくる機会がなくなっていることも同時に知っていた世代でした。僕らの世代でもできるような、もうちょっと簡易型の、立派な木じゃなくて落ちている山のごみのような木を使って、建築をつくりたいな、なんて考えていったのです。

倉方:平沼さんは、どんな建築空間をつくりたいと目指していますか。

平沼:僕らって大学生ぐらいがバブル期で、建築空間をつくるっていう体験はたくさんできたんです。芦澤さんもそうなんですけど、事務所のスタッフ時代に結構なピッチでつくることをさせてもらって、多分、何十件とつくってこれた世代だと思っています。だから現代の、コンクリートやガラスやスチールだけで空間を作っていくことは、建設的に考えるとある種、簡単にも思えてしまう。そんな建設的なことじゃない社会的な問題、今の間伐の問題であったり、サスティナブルな事例であったり、社会的な問題をも同時に解決できていくような空間づくりを目指していきたいなーっと思っています。
これが夜の写真で、6灯だけLED照明を床に埋めていて、使用用途の明快な制限もなかったためですが、それだけの光でこの建物の内部照明としています。屋根が青っぽいのは太陽光発電パネルと鋼板をサンドイッチしたパネルで、都市のインフラからは外していて、蓄電池をも設け、自給自足できるような建物を目指していました。これが構造材となっている間伐材です。この小径木を繊維方向に挽いて、300、600、900、1200、1500、1800、っていうモジュールをつくり、断面方向には、2×4材程度のスケールで4方向に組み、空気層をつくる断面形状を考えて、人の手で組んでいくという「木造ブロック積層工法」という工法で建てた建築です。最後の写真は、森がこういう状態になることを僕はなんとなく目指していて、この状態を汚いというのか美しいというのか微妙なところでしょうが、一番最初に見た山の景色の写真のように、その遠景でみた景色が、近景にあってもちゃんと美しいものにだんだんなっていく山になっていってほしいなと思っています。

倉方:ありがとうございました。

芦澤:これはどこの原生林ですか。

平沼:これは和歌山なんです。

倉方:すごい生命力ありますよねー。

平沼:有田っていう有田みかんで有名な山の奥地なんです。

芦澤:こんなとこも和歌山には、あるんですね。

倉方:平沼さん、ご自身の建築家としての個性はどういうところにあるとお考えですか。

平沼:建築をやっていると、みんなもそうなんでしょうけど、人と被っていくというのか、誰かのものまねになっちゃうと嫌だなあと思って、避けて、逃げてスタディを繰り返すのです。でもできたものが、偶然に雑誌でみた建築や、手法に似てると、かなりショックを受けてしまう。もちろん同じ時代に生きていて、同じような情報を受けて生きていると仕方のないことかもしれないのですが、できる限り、とにかくオリジナリティがあること。僕にしかできないことができればいいなぁっていう風な思いをもちながらそれを、個性としていきたいなっていう願望はあります。

倉方:なるほど、わかりやすい。平沼さんに最後の質問です。建築家とはどんな職業ですか?

平沼:これどなたか、すごい上手いこと答えた方がいましたよね?

倉方:そうだったのですか。なかなか難しいですよね。これ答えるの。

平沼:いつも聞く方だから期待してばかりで聞いていたけど、聞かれると難しいですよね。でも職業としてじゃなくて、生き方として存在するのが建築家という職業であるって信じています。オンとオフがあるような職業では決してなくて、だかれ一種の人生そのものなんでしょうね。それが建築家っていう職業なんだろうと思っています。

倉方:なるほど。ありがとうございました。はい、続きまして芦澤さん。

芦澤:これは2006年に発表した、アンビルド終わってしまってるんですけど、自邸の計画です。これまではモダンな影響を、僕ももともと安藤忠雄のところにいましたので、そこからどう逃れるか、いろいろ試行錯誤をしてたんですけども、しばらくはなかなか苦しい作り方だったなーと思っていて、この頃から肩の力が抜けてきました。気楽に自分の思いのまま、というか、思いのままにはいってないんですが自分流にやれるようになりました。簡単にいうと狭小の敷地に、植物と人間の居場所を一緒に作って考えていこうと、樹木をつくるように建築をつくろうという試みで考えたプロジェクトです。全階、人工地盤で土を盛って植物の居場所を50%は作る、エネルギーも自給自足するという計画でした。この背景には、都市社会にずっと生き続けてきて、あたりまえに全部与えられている環境に疑問が昔からあったからです。人間が生きるというてこと、人間がつくる環境というのは何なんだろうといまでも考えています。
これは2009年かな。先ほど過去の水都大阪の講演会の写真がでましたけど、そのときに初めて大々的なイベントをやりました。その時に会場の計画をしたんですが、竹のパビリオンをつくりました。学生200人位と滋賀にみんなで竹を切りに行きまして。竹は現在全然使われなくなってるんで、環境問題にもなっていて、まず竹の伐採をしようと考えました。その場所の環境を整えながら建築を作るってことが出来ないかと考えたわけです。竹を撓らせてそれを構造体にして、上に格子状に竹を編んで乗せるてこんな空間を作ったんですね。平沼さんもゴミの話がしていましたけど、通常イベントが終わったら仮設の建築物も全部ゴミになっていきます。ゴミっていう概念は人間が作った概念です。、建築をなんとか再利用しようといろいろ試みて、竹の一部をこういった紙にしました。これでイベント建築の本を作ろうとしたんだけども、ゴワゴワすぎて印刷出来なかったのですが。

倉方:芦澤さんは、建築を設計しててどんな事に問題を感じますか?

芦澤:全て問題であると思っています。問題を解決するために建築をやってるんだと思ってるんですね。楽観的に建築って作れなくて、色んな課題を解くために設計をしてるんで、問題がある事そのものは別に問題には感じていません。

倉方:なるほど。じゃぁ次にいきましょうか。

芦澤:これは群馬の住宅地で作った、同世代位の住宅です。屋上を全面果汁園にして、この家族の人達も楽しめるけど、周りの家の人達も見て楽しめる。家なんだけれど、周りの住宅にとってはランドスケープになるような場所を作りたいなと思いました。これは将来イメージですけど、低層の住宅地で屋上の可能性が示せないかなとここでは考えました。
これも割と最近、二年位前に沖縄でつくった「風の間」という住宅で、昔からの友人が沖縄に移り住んで、彼から頼まれてつくりました。タイトルの通り、沖縄の夏の暑い時期にいかに風を通して快適に過ごすかということをテーマとしています。高床式の住宅で、風のとプライバシーを守る緑のスクリーンと、下に2カ所池を作ってるんですけど、その池に風を通して、室内に導き、風を感じられる空間を作ろうとしました。木造でやりたかったんですけど沖縄って木造がむちゃくちゃ高いんですよね、RCが一番安い。なので、コストの制約もあってこうやってます。引戸を全開口すると、冷たい空気が流れ床下に流れる風が掘り込んだ座卓のところにも風が入ってくるように設計してます。雨水を上の屋上テラスを経由して下の池に貯めて、その水を植物にあげる家の計画です。

倉方:こういうのを見てても、地域という場所性が絡んでるのかなと思います。建築と地域性の関係についてはどういう風に考えていますか?

芦澤:先程見せたのが沖縄の家で、次にまた違う地域の建築が出てきますけど、僕はやっぱりその地域にとって、地域性が表れてくるような建築がつくれればということは考えています。所謂モダニズムの建築ってどこに存在しても大体が一緒。インターナショナルスタイルの建築はまさに地域性がない。、これまでの近年は主流派場所性がなくなっていましたが、場所や人によって、表情が生まれる建築がつくれればなーということは考えていますね。

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