平沼:もう一つ。素材がコンクリートと、ガラスと、スチール。ちょっと近代的なものを、好まれて使っているケースが多いのかなと思うんですけど、そういう何かお考えのことっていうのって…。

栗生:このあとまたスライドに出てきますけれども、実はこの伊勢神宮のせんぐう館という建築ですが、皆さんご存知のように、伊勢神宮の御正殿や何かは屋根が茅葺ですよね。 20年ごとに替える。

平沼:はい。

栗生:私がせんぐう館を設計した時に、もう半分冗談ですけれども、この建物を茅葺でやりませんかって。で20年ごとに一緒に建て替えたら良いんじゃないでしょうかって言うことを申し上げたら、当然それは無理って。これはできるだけ長い期間を、耐久性のある素材でって。で、考えたのは素材として屋根材は何かって時に一つは瓦。でも瓦はやっぱり仏教系ですよね、どう考えても。そうすると金属かなって。で、アルミ、ステンレス。でもどうも違うなと。その時思い浮かんだのが鉄ですね。でこれは古代のたたら製鉄からイメージしていて、鋳物の鉄を使うっていう風に落ち着いた。日本の今の法律だと、鋳鉄を構造材には使えないけど屋根材には使えるということで、異例の大きさの鋳鉄を使いました。それは良かったなという風にも思いますし、床の板には、伊勢神宮の砂利を練りこんだPC板にしているんですね。ですから何かそういうお話を素材と結びつけていくっていうことが大変重要なのではないかなっていう風に思っています。工法に関しても、これも伊勢の神宮は山田工作所っていうところで部材を細工したものを現場に持ち込んで、一気に組み立てていく、一種のプレハブなんですよ。あの建物自身も、そういうモジュールを決めてできるだけ工場で作って現場で組み立てるっていうやり方をしました。ですから、神宮の作法だとかマナーだとかそういうものを盛り込んでいくってことですね。

平沼:そこからきているってことですね。ありがとうございます。次、お願いします。

栗生:はい。長崎の原爆死没者追悼平和祈念館、これはプロポーザルコンペだったんですけどもコンペで通った案とまるで違うんです。プロポーザルの時点で、建設省の要項の中には、できるだけシンボリックなもので、いろんな所からよく見えるものにしたいと書いてあって、かなりシンボリックなものを作った。稲佐山がある反対側の方からもよく見えるっていうようなプレゼンテーションをしてそれが評価されて、実現することになったんですけれども、実際長崎に行ってびっくりしたのですが、まずこれは都市公園の中にある建物なんですね。で、もうすでにいろんな建物が建っていて、もう残っているのは2〜30平米しか建てられない。建設省の担当者は、これは国の建物ですから、特例にすることができるのではないかっていうようなことを言われたのですが、しかし、ルールはルールとしてある訳ですよね。さらに、僕がもう一つ驚いたのは、遺族の方々へ説明に行ったときに、「我々は建築は要りません。」と面と向かって言われたのです。折角コンペで取って、意気揚々とこれ建てるぞって形で行った時に「建築は要らないんですよ。静かに祈る場所があればいい。」ということを言われたんですね。それはショックだったんですよね。それでその2つの条件を考えたときに、思い切って全部地下に埋めようって。これで、いろんな人にね、地下建築家って言われるようになったのですが。これ、周りロータリーなんです。この下も全部、建築が入り込んでるんですけれども、もうバスだとか、タクシーだとかがぐるぐる回る所、真ん中が小さい公園になっていたんですけれども、そこに直径30mの水盤を作って、そこから降りていくと、地下に祈る場所があるという形です。これがあの入り口から入ったところですね。さっきの素材の話ですけども、地上部分は全部ガラスです。この時構造を手伝ってくださった今川憲英さんが、僕が「1番耐久性のある素材はなんですか」って言ったら、「やっぱりガラスが良いんじゃない」と言われたのです。ガラスっていうのは清涼感もあるし、こういう祈りの場所にはふさわしいかなと思ったのです。地上の部分はガラスの壁だとか、ガラスのベンチだとか、あのエレベーターの塔屋部分が出てくるんですけれども、それも全部ガラスで覆っています。そして地上部分の水盤から水が地下に降りて行く。真っ正面はこの写真では分かりづらいですけども、滝になって、さわさわさわさわ音が、室内との間に、高さ7mのガラス戸が、全部で6枚だったかな。これを全部引き込んだ。ですから、外部と内部が一体となって、水盤が地下にも出来るんですね。水を止めるとこの水が抜けて、ここは広場になっていく。内部と外部が一体になるって事ですね。ぐるぐる周りながら降りていく途中途中で、水が湧き出ているんですね。光が当たるとその反射が、壁に写っていきます。テーマは、水をできるだけ使うということ。これは何故かと言うと、原爆で亡くなった方々が最後に言われたことは、「水が欲しい水が欲しい、水をくれ」だったと。ですから鎮魂の意味もあって、至るところで水が湧き、水の音がしてっていうような建物になっています。地下2階に降り立つとここが祈りの場所ですね。天井部分、ガラスのトップライトなんですけれど自動開閉できます。これが地下からずーっと、外部と一体になり、地下に行くと外部空間が降りてくる。この正面の空のちょうど中間くらい、ここの地点から800m先の、地上500mだったかな?で、原爆が爆発したって言う場所です。この正面に 死没者名簿が置かれている。そこに向かって祈る場所として考えました。一辺1mのガラスの柱が全部で12本。これ地上にガラスが祈りの壁として立ち上がっていくという形になってます。地上部分は水盤なんですけれども、これもプロポーザルで入った後、今度は厚生省からの要望で死没者の数7万人を何らかの形で表現してほしいと。よく灯篭やなんかにありますよね、灯篭流し。水盤の水深を何cmぐらいにすると光が綺麗に見えるかと、これは石の盤なんですけども、そこに本当にジェット水流で細かい穴をあけて1本1本グラスファイバーを差し込んでですね、それで光を灯してるんですね。で、面出薫さんの所に照明計画を協力してもらって、実際に面出さんの事務所の屋上で、いくつも水深を変えた光を実験してるんですね。5cmがちょうど逆円錐形に光が。それより深いとそれがぼやけてしまう。それよりも水深が浅いと、光の迫力がでなくて、ちょうど5cmがピッタリ。真夏の暑い最中に職人さんが、1本1本石にグラスファイバーを差し込んで留めるっていう作業になりました。
手作業なので光り方が、全部違って見えるんですね。光り方が均一じゃないことでその7万っていう死没者のそれぞれの異なる魂が表現できたんじゃないかなと思います。風が吹くと光が揺れ動きます。これが真正面、祈りの壁です。

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