平沼:結局、規模が拡大していくこれらの建築は、持続した街づくりとした経済装置の役割を担わされていくということですね。

安藤:そうなんです。本来なら建築は、地域の為だったり、周辺環境のためだったり、単なる経済装置を超えて、社会的な意義を持ち得るものです。誰のための建築なのか、いつも難しい決断を求められます。

平沼:身近に利用する地域の人や市民に対してつくっていくのが建築だと思うのですが、街という共有資産を利用した個の企業の利益のために、“儲けに”誇りを持つような人たちが現れた。

安藤:絶望的ですね。(笑)

会場:(大笑)

安藤:企業が失敗するとデトロイトみたいに、ゴーストタウンにさえなっていく危険性も無視した、費用対効果を最優先に求めた大規模な建築づくりが展開しようとしています。経済人はもう少し、市場を考えて、社会全体のシステムに目を向けて頂きたい。 ただ、このパリでの展覧会をみて感動したので、是非、ミラノに持ってきて開催してくれと言ってくる人もいました。約30年来の友人である、ジョルジオ・アルマーニさんです。結局おもしろがってくれたことに乗って、来年の4月8日より3ヵ月間の会期で、ミラノの「アルマーニ・サイロ」で巡回展を開催することになりました。ジョルジオ・アルマーニさんが運営する、穀物サイロを美術館に再生した会場です。そしたら今朝、別の人が、このミラノで予定されている展覧会をシンガポールへ巡回させてくれないか?という問い合わせがありました。会場も費用も全部用意するからというのです。結局、面白いことをしていたら、世界には見つけてくれる人がいっぱいいる時代になりますね。

平沼:もちろん安藤さんだから、という大きな要件はありますが、アイディアという歴史に裏打ちされた前衛的な面白いことを探している人たちが、建築に隣接するファッションやアートを中心に経済人にもおられますね。

安藤:結局、人なんです。どんな職業でも人がもつ人間力が大切だと思います。それを養うには、まずは自分と向き合い、意欲を見出すこと。そして積極的に経験すること。この積み重ねが人としての魅力を生み、人間力を培い、面白いことをやっていく力となる。だから私は結局、建築を通して社会とそして、いろんな人と付き合えることが良いなと思っています。結果、そういう面で、建築をしていて良かったなと思っています。

平沼:安藤さんは、建築というフィルターを通して物事を捉えていますが、逆に建築を考えられる時に他分野か ら影響を受けますか?

安藤:私は、文芸や美術、音楽や映画、そして建築と、芸術分野でもいろんなものを観にいきますが、どこで、どれほど、影響を受けたかは分からないのです。平沼さんだってそうでしょ? 恐らく見聞きしたもの全てが栄養となりますからね。 この会場でもそうですが、私は建築や、建築への想いの話しをすることで、少しでも皆さんの心に残る時間を提供することが出来ればと思い、毎年、ここにいます。

>>続きへ


| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | NEXT