芦澤:確かに、先程プロダクトって仰っていましたけど、いわゆる建築の従来の柱があって梁があってという概念で構造計画をなされていないんですね。

小川:要らないですね。学生にも言いたいですね。建築の大学の学生とか、600の柱7,8mピッチでやりなさいという計画をするじゃないですか。うちの学生は可哀想ですけれど、作りたいものを作れと。そうしたら、構造、施工、材料の人が考えてくれると。要は、医学と一緒で、新しいものを作りたいがために、新しい構造、施工方法も生まれるので、作りたいものを考えるという方が大事かなと思います。だから建築的な概念で拘束されない方がいい。芦澤さんは、私と近いですよね。この前新人戦で選んだのを見ると、芦澤さんと私は結構近いなと思って。

芦澤:何も考えていなかったのですけどね。

会場:わはは。(爆笑)

質問者4:本日は貴重なお話ありがとうございました。建物の内から外を切り取ったり、壁を作ったりというのがすごく多かったと思ったんですが、逆に外側から見た時の建物の外観とかを意識されて作ることってありますか?内側から外を借景のように切り取るところが凄いなぁと、シンプルに感じたんですけれども、逆から見たらどうかという、感想をぜひお聞かせください。

小川:敷地に行って、見る風景があるとそれを大事にして進めるんですけれども、街のど真ん中とかだと、普通に作って、隣の家がばーっと見えるよりは、自分の空間、自分の敷地ですので、最大限空間を自分のために、使う方がいいかなと思っています。外は静かに。目立つかもしれないけどね。だからあまり逆になにもしないですよね、外はね。あんまり考えていないということですね(笑)。

平沼:さっきスライドの写真で見せてくださった透明な椅子のように、建築をどちらかというと「消していく」という方向ですよね。          

小川:建築の形態や造形をガンガンと見せていくことや、ディテールというカラクリを見せる、というやり方は、どうも「俺はこんなにやったんだ、見てくれ!」ってものになりたくなくて、できるなら「消していく」という隠したい意識がありました。平沼さんは、よく見られていますね。

平沼:(笑)いや、今日のスライドは300枚くらい用意していただいて、はじめは白さや、キューブというボリュームをみていたのです。会場の皆さんもきっと、ずっとみていて、何の違いが、だんだん少しずつわかってきました。今後、どんな建築をつくりたいですか。

小川:美術館の仕事とか全くしたことがないので、美術館はやってみたいですよね。皆さん沢山されているけど、うちの事務所にはぜんぜん、依頼がきません。(笑)。

平沼:パブリックなコンペに応募されることはありませんか。

小川:昔はねぇ、これでも応募していました。上位5人くらいには入るのですが、1等に中々ならないですね。広重美術館とかも、プレゼンテーションまでして、だめでした。最近は、結構、依頼される仕事が来るようになったので、もう最近は辞めてしまいましたね。

平沼:小川事務所のスタッフは、とても優秀ですよね。こういう役割からいろんな建築家の方たちの事務所の方とやり取りをするのですが、小川事務所の方からは、すぐにレスポンスが返ってきます。きっとオフレコのような話しですが、安藤事務所や伊東事務所、槇事務所なんて、凄すぎるくらい早いのですが、(笑)その方たちの事務所と同じくらい、早く的確です。スタッフの皆さんで1つのものに対しての議論はよくなさいますか。

小川:本当ですか。褒めておかないといけませんね。(笑) スタッフには、私が考えたものをどう思うかっていうのは聞きますね。事務所は夜の9時までには終わるようにしています。まあ事務所によっては、5時や6時に食事しに行って、夜12時までやったりしますよね。合理的でないことはやらないので、絶対9時に終わらせる。ずーっと考えていて、9時になったら考えるのをやめて、パッと帰って、翌日の覚めた目で見ると、ああこれ全然ダメだとか、客観的にみれるじゃないですか。そういうふうに、やっています。割り切りがいいということですかね。プランを決めるのはよその事務所より早いように思われています。

芦澤:スタッフの方に何かこう、ディテールとか任したりとかっていうのは。

小川:それはないです。

芦澤:基本小川さんが全て決められるんですか?

小川:そうですね、全て決めます。現場にも必ず行きます。

平沼:いま、三分一さんにお聞きしたことを思い出しました。多くの図面の中で、矩計図だけはスタッフに描かせない。そのことを、小川先生に教えて頂いたと聞いたことがあります。このあたりで時間がいっぱいになりましたが、今日の会場には、学生さんたちや若い人たちが多くいらしています。月並な質問を、ここに来ていただいた建築家の人たち皆さんに聞いているのですが、「建築家とはどんな職業ですか?」

小川:私のところに設計を依頼する人の半分くらいの人がお医者さんが多くて、そのお医者さんは、毎月a+uを購読しているような建築マニアとか、ミース・ファンデルローエのバルセロナ・パビリオンを見てきたとか、本当は自分も建築をやりたかったんだけど、医者をやっているんですとか。
建築家はいいよね、未来に向けて夢がある仕事でと言われる方が多くいます。自分たちは治す仕事だから生み出す仕事は、素晴らしいといわれます。恐らく無い物ねだりで羨ましがられているのだろうとも思うのですが、そういう意味を素直に受け止めると、本当に幸せな職業だと思います。

AAF:小川先生、たいへん申し訳ありません。お時間一杯となってしまいました。
本日はどうもありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

平沼:楽しかったです。ありがとうございました。

小川:こちらこそ、ありがとうございました。

会場:(大拍手)




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