栗生:はい、ふふふ。奈良国立博物館の仏像館ですけどもね、奈良に行かれると興福寺と春日大社の間ですけれども、そこに国立博物館があります。これ1894年、日清戦争の時に片山東熊という建築家が設計した建物です。片山東熊というのは、上野の博物館もそうですし、京都の博物館でもそうですけれども、僕はこの建物が一番好きです。プロポーションもいいし、フレンチルネッサンス様式って言ったらいいのかな、これ西側なんですよ?本来こちらが正面なんですけれども、なんか西日がストレートに入ってしまうっていう事で、塞いでるんですね。それで、丁度反対の東側がエントランスになってる、これがそうなんですけども、手前の方の部分をかなり手を入れています。片山東熊の建物は重要文化財になってまして、一切手が触れられない。こちらの方はこれも重要な建物ですが、吉村順三さんが設計された新館とこの本館を繋ぐ事と、更に東側からの入場者を受け入れる場所なんですが、この部分は私の方で随分手を入れました。それで中は、全部入れ替えるということで、こういう空間です。これも壁天井は触れられないので、中に入れ子の様に新しい空間を作ろうと、大きな梁を渡して、柱無しの空間にして、しかも天井の片山東熊がデザインしたモールディングだとかがよく見える様にライトアップしています。また、梁の所から仏像を照らす、出来るだけケースに入れないようにしたんですね。ですから、裸の仏様が点在してる、足元全部免震台です。免震台の大きさによって、仏像に手が届かない様にしてあるんですけれど、色が桜鼠っていう古代色、古代色って言ったらいいのかな、ピンクなんです。薄いピンク。鼠色とピンクの。何故かと言うと、ここは吉野の桜のすぐ近くにありますから、桜の満開の中で仏様が沢山集まってきたと。先程の平等院の方は相当暗くしてますよね。あれはお寺さんの方で、こういう照度がいいって、暗い方がいいんです。お寺はみんなそうなんですけども。逆にここは、学芸員の方が出来るだけ明るくしてください、お年寄りの方が沢山来られるので、仏像の細かい所までお見せしたいって事で、出来るだけ明るくしたいって事だったんで、桜鼠という色にしてまぁ良かったなと思うんです。大きな障子があって、それが引き戸になってましてね、オープンにするとで収蔵庫から仏像を搬入するというような事です。これは片山東熊デザインの部分です。こういう物を逆に引き立たせる為に割とシンプルな面、梁っていう物で構成している。通路部分、ここは流石に小さい小物ですし、ケースに入れましたけれども、高透過ガラスって言いますかね、ガラスの質の良いもので作ってます。扉部分やなんかは片山東熊ですから扉も一つの展示だという風に考えてます。ビフォーアフターですね。エントランス部分なんですけども、以前は自然光がルーバー状の物から入ってて、明るかったんですけれども、中の展示スペースを明るくしてるので、逆に入り口の所を一度暗くしようという風にしました。暗いエントランスから中に入って、明るい展示スペースになるように逆転させた訳ですよね。これは小さい展示スペースですけれども、ケースを変えて、照明を明るくした。以前のこの中央の部分はやはりこのチョウチンアンコウの様な照明器具が出てたりですね、天井が暗かったり、或いは仏像に光を当てる為にフレームが出たりしてたのですが、そういうのを整理しました。
最後に東京都の世界都市博覧会というのがありました。途中で知事が代わって方針が変わって、実はこれ中止になった博覧会なんです。この時、建築家と言うよりも地区環境ディレクターという形で参加したんです。4人建築家が選ばれたんですよ。伊東豊雄さんと山本理顕さんと石井和紘さんと私です。その4人の中で僕が一番若かったんで一番厄介な所を押し付けられたんですけれど、青海の2地区っていう地区を担当しました。その地域のその環境をディレクションする。建築を作るんじゃないですよ、建築を頼まれた訳でも全然無い。私が担当する所はですね、全部で13館企業パビリオンが出てくる場所なんですよ。じゃあその環境をどういう風にしましょうかっていった時に、最初に持って行った写真がこれなんです。それは、企業パビリオン群の真ん中に池を作るっていう事が、もう既に協会の方で決まってたんですね。じゃあこういう池はどうですか?って持って行ったら協会の人が行天しましたよね。協会の方々は当然綺麗な形をした池をイメージしてたんですが、これはアフリカサバンナに雨が降って低い所に水が溜まってそこに水牛だとか水鳥だとか色んな動物が来る訳ですよね。こういうものやりませんか?これ日にちが経つと干上がってしまう。で動物達は水を飲んだり体を冷やしたり体を洗ったりっていうことで使う水ですよね。もう一つのイメージは木を使いましょうと。これは開催地が木場ですから、当然なんですけど、水と木をテーマにした環境を作りましょうということです。これはサンマルコ広場です。イタリアの有名な広場ですけれども、右下の写真が重要なんです。これアックア・アルタという現象で、水が上がってきて広場が水没するんです。しかし、子どもなんか大喜びですよ、非日常的な環境で。だから都市の中で日常的な環境と非日常的な環境を両方体験できないかということを考えた訳ですね。これは私が最初に提案した、企業パビリオン。グレーで塗り潰してるの四角いの13個あるんですけれども、それがどういう形になって出て来るかはまだ全然わかんない、みんな秘密にしてる訳ですよね。だから四角く塗り潰して、真ん中が広場になる。広場は時間がたつと、水が湧いてきて一番低い部分から広場が水没する。先程のサンマルコ広場と同じです。勿論パビリオンの際の所は高くなってますからそこまでは水は行かないですけど、広場は完全に水没する。それは何故かって、簡単なんですよ。あの広場は真ん中が凹んでてその下に大きな水瓶を持ってて、それが循環する訳ですね。戻る時に滝になったり噴水になったり小川になったり、様々な演出をしながら水が戻って来る。そうすると広場全体が水没するという仕掛けです。1日に2回これを繰り返します。もう一つは木ですけれども、三多摩地区から間伐材を集めてきて、まぁシェルターを作る。さっきの水溜りに水牛が集まってくるようなイメージですよね。5種類くらいの三角形の組み合わせでこういうのができる。それから床に古材、解体された住宅の木材を床に象嵌しようと。夏場の開催ですから、照り返しが非常に強いのと、足触りがもう少し柔らかいほうが良いなということで可能な限り沢山地面に木材を埋め込む事を考えた訳です。これがそのシェルターですけれども、真ん中に縁台の様な椅子があって、お爺さんお婆さんはここで長い時間休んで、子ども達とか若い人達はパビリオンを見て回る。そのうちに水がひたひたひたとこう迫ってきて、取り残される訳ですね。でもそのまま居るとまた水が引いていくという形です。地区環境ディレクターはもう一つ、そこでどういうイベントをするのかも提案しないといけません。江東区の角乗りっていう、角材の上で職人さんが木を扱う、今は小学校のプールで披露しています。あれを真ん中でやったらどうかということで、江東に交渉に行って、是非やりたいと世界の人に観てもらいたいという内容でした。もう一つ、これは大田区のイベントですけれども、汐入という神輿を担いで、水の中に入っていくというようなイベントをやりましょうと。都市で災害が起きたときに、何が重要かというと、やっぱり水なんですね。水を都市博の一つのテーマとして、そういう水を持っている広場ってものが重要なのではないかと。災害時に有効活用できるよう雨水を貯めたり、海水を真水化するような技術があればいいのではないかということですね。

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