平沼:あ、大丈夫です。もう1つ、お願いします。

栗生:2001年に平等院の宝物館を造りました。割と古い写真なんですが、これの右の奥にね、マンションが2つ建ったんです。これ、宇治の駅の近くなんですけれども、世界遺産に登録した直後だったと思うんですけれども、そこにマンションがあって、外国人が来て、この阿字池の手前で鳳凰堂の写真を撮ろうとすると、背後にこのマンションが映ってしまう。日本の景観行政っていうのが、遅れているっていう話になる訳です。それで鳳凰堂の左奥にある7mの丘の上に宝物館をつくる計画でした。手前が鳳凰堂で、左奥に宝物館。しかも既存の宝物館の5倍の面積の建築をつくる計画でした。当然、丘の上にその5倍の面積の新しい建物をつくると、相当大きい姿が現れる訳です。それは避けたいという事で、その7mの落差の丘の中に、建物の大半を埋めています。阿字池の周りを回って、その丘の麓から入って、丘の上に上がっていく。丘の上の上がった所には、ミュージアムショップだとか、休憩スペースだとかがあり、これは陸屋根にしています。本当は、屋根型にしなさいと、歴史的な景観地域では要求されるんですけれども、屋根型にするとどうしても棟が高くなるので、見えてしまうのでそれは避けたい。この写真でも奥の方に、マンションが見えますよね。この建物を造るために何度も文化庁に協議、話し合いに行きました。で、そもそも、ほとんど国宝が展示されている宝物館ですから、その「国宝を土の中に入れるとは何事か」っていう話から始まる訳です。技術的なことは、植村直己冒険館も半分地下ですから、こういう方法で、地下であっても有効に使える、特に宝物は、地下の方が逆に、外乱が少なくて、安全で、良い環境が作れるんですよと説得しました。屋根型も、棟が高くなるとこんな景観になってしまいますよと絵を描いて説得し、こういう形のものが出来ました。これが入り口ですが、「どこが入り口なの」って言われるくらいに素っ気ない地下からの入り口です。地下であっても、外部の自然を感じさせるため、トップライトから光が落ちて来る。これは、鳳凰堂の正面の格子のモチーフをそのまま同じサイズで取り入れたものです。これが52体あるんですけれども、雲中供養菩薩って、これ全部国宝ですが、本来は鳳凰堂の鴨居の上の暗がりにかけられていて、あんまり良く見えない。それを、この宝物館では、降ろしてきて、直近で、横からも後ろからも見えるようにしました。それで、レプリカが鳳凰堂の方に飾られるようにしています。で、地下をぐるーっと回って、それで地上に上がって来る訳ですが、「和風にしなさい」という指導もありましたんで、和紙をサンドイッチしたガラスパネルで、西日があると。その外の紅葉がこの障子に映るというような形です。で、地上に出てきて、東の朝日山を望むような形になっているんですね。あの格子扉を開けると、広縁になっていて、皆、ここで休む。この床から天井までが、1850しかないんですよ。だから、必ず皆座るんですね。それで、ここから、ちょうど阿弥陀様の視線のレベルで、同じように東山を見ることができるという形になっています。

平沼:はい。ありがとうございます。どうですか芦澤さん?

芦澤:はい。まずちょっと、素朴な質問からなんですけど、こういった文化施設と、お寺という、我々からすると非常に羨ましいお仕事の内容だと思うんですが、仕事を始められた経緯は、コンペだったのでしょうか?それともご指名があったんでしょうか?

栗生:はい。植村直己冒険館は、紹介してくださった方が居て。それで勿論面接を受けて。最初提案したものは、補助金がつかなかったんで流れたんですけれども、もう全然諦めてた頃に、復活しました。2度目の提案には全然違う案を持って行きました。さっきも言ったように、もっと目立つ建物にしてくれって言われたのが全部地下になっちゃってますからね。その時に一緒にランドスケープをやった、ランドスケープのデザイナーが、平等院のご住職の息子さんだったって言うことで。ご存知でしょう?

芦澤:はい。宮城さん。はい。

栗生:宮城さんが、宮城さんのお父さんである住職に紹介してくださった。で、何人か候補者がいたようですが、その中で簡単なプレゼンテーションをして、選んでいただいたってことです。

芦澤:なるほど、はい。

平沼:今の、2つの建築見てると栗生さんの建築って、両方とも実物見させてもらっていますが、スケールが結構小さめというか、ヒューマンスケールに合ったものを作られている印象があるんです。それは、栗生さんの建築作るときの導き方みたいな、何か特徴みたいなものってあるんですか?

栗生:やっぱりその建物の要求されてるボリュームというのは当然ある訳ですよね。その中で、ここはずっと抑えたスケール感で、その先にポンと高い吹き抜けがあるとか、そういう道行みたいなものを常に考えてます。だから植村直己さんの場合は入り口からずーっとスロープで地下に降りてくるような感じですし、平等院の方は、逆に地下から地上に上がっていく、ぐるぐる回りながらです。その時に、その場その場でどういう体験をさせたいのかな?ということを考えながらやってますね。

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