山下:最後にもう一つ、僕は九州大学の大学院生を教えているのですが、高齢者施設をやろうと思っています。10年前に僕は、ドイツのベーテルという場所に行ったんですね。そこは、ナチスドイツがユダヤ人を殺したことは有名ですが、もう一種族殺した人がいます。それは障害者なんですね。障害者を全部殺したのです。それはなぜか、いらない人だから。ヒットラーにとっては、役に立たない人はいらないようでした。そして、その時にこのベーテルという街がその障害者を守ったのです。だから今、ドイツはえっと、大統領になるとアンチヒトラーであることを宣言するために、ベーテル詣というのを行います。今は、二万人のうちの八千人ほどが障害者なのですが、非健常者と健常者が共に暮らしている街を見たら、これから日本は高齢化になって、世界がそこに向かうのであれば、ある意味理想像だと思っています。それを大学で研究をして、次の時代を作っていきたいと研究をして授業をすると、ありがたいことに去年ぐらいからそのようなことを現実的にやりたいというオーナーが出てきて、ソフトとハードを一緒になって作ろうということで今、鹿児島で2つ、このように作っています。するとやはり奄美のことが気になるため、奄美を調べると奄美もやはり高齢者が多くて、高齢者施設もあるにはあるけど、あまり進化していません。施設は山のようにありますが、施設に合わせて介護されていることが多く、その個人に合わせて施設が動いていることはあまりないのです。そのような施設が増えていくことをどうにかしたい。僕は思ったら絶対行動しようと思っているので、現実的にその高齢者施設を運営することを考えて、施設を設計するだけではなく、運営も行い、最後はその高齢者施設をベースにした集落、集落の空き家を利用したデイケアサービス、集落ごと高齢者施設、高齢者や障害者が終身になり得る街って絶対できると思っています。それは奄美に合うとも思っています。
 奄美と東京と福岡という三拠点で代表をしている設計事務所を持っていて、3拠点ともに家があるので、その三拠点を移動するのに、僕はリュック一つでします。この3拠点の生活には満足しています。

平沼:3拠点と言われると、とても豊かに感じます。

山下:マイルがいっぱい貯まりますね。(笑)

平沼:うんうん、そちらもいいですね。

山下:うんうん、こちらもありがたいことに、一番ステータスの高いカードにもなるのですが、あまり恩恵がないのが正直に不満です。(笑)

芦澤:伝泊もマネージメントなされて、持たれていらっしゃるんですか、それとも借りられてますか?

山下:お借りして、向こうで運営も全部しています。でも、そうしないと勉強できないし、僕がやりたいことができないのです。なにがやりたいかというと、その建築を守ったり、その地域のその雰囲気を守る事。それをやっぱりしないと、100年後200年後こんないい場所があったのにって、みんないつも言うじゃないですか、昔はね、あそこよかったのにねえ、って言う立場に僕はなりたくないと思ったので、自分でそれをやろうと思っています。

芦澤:それもまた、ご出身の奄美以外の場所でもされていくのは、結構なエネルギーですね。

山下:結構なエネルギーは必要です。ひとつ条件があるのは、ほかの地域でやるときは、その地域の人たちから要望をされない限りは絶対にやらないこと。当たり前ですけど、もう大変なので。

平沼:最終的に建築と人の関係は、どのようになっていけばいいと考えておられますか。

山下:それは先程の自然と一緒だと僕は考えていて、建築家ってやはり何を一番相手にしているかと考えると、人だと思います。

平沼:そうですよね。

山下:僕はやはり人を一番相手にしていると思うので、僕らが相手にしているということは、建築と人ってそんなに境がないのではないかと思います。

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