安藤:そうですね。まずはライセンスのことと、建築のことについて考えましたよ。建築家には、まず一級建築士のライセンスが要ると皆に言われました。大学の教育を受けなくても二級建築士の受験は、実務経験年数で受けられたんですね。だから日中は朝から建築のアルバイトに通い、昼休みの時間にずっと勉強をしていました。パンをカジリながら、1年365日365時間勉強し、1度で合格することができました。その次に4年経つと、一級建築士の受験資格をいただく。同じように建築のアルバイト先で昼休みに勉強をする。夜はね、日中にがんばっていたせいで、クタクタになってなかなか本を読めなかった。

このライセンスの取り組みを終えた頃の60年代は、マルクスの時代が終焉に差し掛かり、学生が皆、哲学書を読み出した時代です。一心寺というお寺が四天王寺にあるんですが、住職をかねた建築家の高口恭行さん、京都工芸繊維大学にいた山口さん、大阪大学にいた笹田さんという私の友人たち、みんな私の1つ年上ですが、彼らは私に言っても知らない哲学者の名前ばかり話すのです。(笑) でも私は、「メルロー・ポンティ?それ知りませんねぇ」などと言ったらだめと思い、知らない名前が出てきたらこっそり調べて読む訳です。でも、読んでも読んでも、全然わからない。(笑)でもいつかわかってやろうと思ってまた読み直す。そして、西田幾多郎や和辻哲郎等も、面白いよと言われれば、また繰り返しで読む。この頃は、1日15時間くらい本を読んでいました。だいたい朝8時ごろからはじめて、食事などを挟み朝の5時くらいまででしたかね。2、3時間くらいしか寝ないで、本を読んでいました。若い頃は、体力がありましたからね。特に、和辻哲郎の「古路巡礼」や「風土」は何度も読みました。。彼は世界紀行にインドからずっと北に上がっていくわけですが、いつかこの和辻哲郎の歩いた道を歩いてみたい、と決意して読みました。

平沼:勉強や学問とは自分の中で楽しみを発見すると、夢中になって取り組むものですね。

安藤:1996年に東京大学から、教授になってほしいと依頼がありました。まずは嫁に相談したら、「やめてくれ、公務員はイメージが悪い。」と言われ、「そやなぁ」と思い、親しいお付き合いのありました、当時サントリーの会長だった、佐治敬三さんに聞いたらまた、「やめておけ」と言われる。「なぜですか?」と聞くと、「お前は建築しかできない。向こうは勉強しかできない。接点がないからやめとけ」とわかりやすく説明をしてくれます。大阪の人は皆、わかりやすく話すから良いですよ。意思と言葉がしっかりしとる。だからこれからの若い人たちは、仕事をするときに、「これは何でするのか」というのをきちんと聞いてください。大阪人のいいところはちゃんと聞くところにもあります。
でもこの佐治さんのお言葉から、勉強をしてこなかった少年期を想い返し、優秀だと言われている学生たちと一緒に勉強できるならいいなぁと思って行くことにしました。だからあくまで一緒に勉強しようと思い、教えるつもりはなかったのです。7年程通ったのかな。もう地獄でしたよ。(笑) 
今、芦澤さんは、滋賀県で教えているんですね。先日、京都工芸繊維大学の古山先生という学長と話していたら、「うちの先生は学校に来ませんわ」と言われる。「それは、おかしいでしょ? 」と言うと、「建築学科の教授は10日に1回も来ませんよ」と言われる。どう思います?

芦澤:そうですね。

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