重村:仕事がないときが楽しくって、それでなんかそれが結局肥やしになってるんだよな。ヤナセの方じゃないよ? 仕事がないときに、必死で考えることが楽しかったと思うんだよね。だからさっきのワークショップで僕が思うのは、住民集めて、意見を無理やり、あたかも民主主義的に決めたみたいに見せるワークショップって嫌いなんですよね。ただ、ワークショップっぽいもので、考えるってことで面白かったのは、沖縄の最初の仕事をしたときに、泉崎ってとこに使われなくなったホテルがあって、何の部屋だか忘れちゃったんだけど、でっかい部屋があって、そこに製図板を置いて、「重村、おまえまとめろ」とかいって僕がひたすらまとめをやってて、それで樋口さんとか丸山さんとか大竹さんとかがフィールドに出て行って、「重村、こうだったんだ!」っていうのを、僕がひたすらまとめてって、みんながその図面に描いていくわけね。そういうワークショップはすごい面白いよね。

平沼:ありがとうございます。会場から1名だけ質問とってもいいですか。

樋口:どうぞ。

平沼:どうぞ、一番後ろの方。でももうワークショップというよりもそのまま、そのプロジェクトがどんどんリアリティのある中で進行していく。

重村:それが集団総作家という。

平沼:なるほど〜。はい、どうぞ。

会場:初めの方におっしゃってた矛盾という言葉がすごく響いてて、建築で今、日本の建築で矛盾していることとか、そんなこと言い出したらキリがないんですけど、そういう今の時代だけを見て、日本とかそういう境界をすべて取っ払って、それこそヨーロッパとかすべて入れてしまったときに、樋口さんが建築の中で、建築学の中で矛盾を一番感じているものを教えていただけたら幸いなんですけど。

樋口:やっぱりさっき言ったように、身体の中の自己矛盾みたいなのがまず原点にあって、それで場所にいったときも、場所っていうのは矛盾に満ち満ちていて、だから、例えばEUとかの話をするときに、ここの集落はどういう構造でできているだろうというのが原点にないと、いきなり国境とか、日本国とEUなんていうのをやっても、なんか虚しい感じはするんだけどね。解答がその中にはないという。矛盾というのはいいんだけど、平気でもうザバーっと自分の中に矛盾を抱えていると思うと楽になるっていうかね、何言ってもいい、何やってもいい。だって矛盾してんだからね。そう思うぐらいがいいんじゃないかな。

会場:はい、なんかすごく有意義な答えで。すごく心に響いたんです。今年働き出したばっかりなんですけど、設計事務所で。こう思ってたのと違うことがあまりにもありすぎて。

樋口:設計事務所なんてろくなとこじゃないからね。自分を見失わないように。「私が大切」と思った方がいいよ。

会場:すごく楽しかったです。ありがとうございます。

平沼:ありがとうございます。これね、最後なんか怒られそうな質問するんですけどね、毎回聞いていて、建築家ってどんな職業ですか?

樋口:建築家って僕、実はしょうがないから名乗ってんだけど、建築家っていう名称はすごく嫌いです。たとえば僕の師の吉阪隆正っていう人は建築家であり、登山家であり、自由と平和の戦士であり、生活学会の長だったり。だから僕はもっとマルチプロフェッショナルでいたい。建築家って言葉には、非常に貧しいイメージがある。都市でしか存在しない。例えば、インドネシアの島々には建築家っていう言葉はない。いらない。だからできたら僕も建築家じゃない名前が欲しいんだけど、いいのがないんだよね、残念だけど。建築家っていうのは、できたらやめたいね。

平沼:なるほど、わかりました。

芦澤:建築は楽しいですか?

樋口:つくるのは好きだね。建築が楽しいっていうか、ものが浮かび上がってくる、例えば柱が生えてくる感じ。そういうのはやっぱり好きでたまらない。特に僕たちは、現場にいくらでもエネルギーをつぎ込む。その現場で見ている風景、そこにいる職人たちとなんかつくっていくみたいなね。設計事務所の中で設計ばっかりやってるのは好きじゃない。建築家っていうのはそういう人たちだとしたら、僕はやっぱり好きになれない。

平沼:なるほど。

芦澤:最初におっしゃられたように、生き物をつくり出すような、そういう考えでしょうか。

樋口:生き物をつくり出すんじゃなくて、気分としては生き物は生まれてくるんで、僕たちはそれを一緒にやってる。その場所に生えてくるみたいな、植物みたいなね。生えて動かないから動物っていうより植物っぽいって思うけど。生きてるんだと思うと、さっき言った進修館は30年経ってる。建築家なんか死んじゃうかもしれないでしょ、だけど30 年経ってまだピカピカに生きてるんだよね。彼らが毎日掃除したり、なんか催していたり、コーヒー飲んだり、そういう行為が建物の空間をつくって行くわけで、建築家っていうのはそこまで考えていかないと。僕は今の建築家みたいに、表層デザインていうかね、その中で良い悪い言ったってさ、しょうがないだろと思うね。ダメ?

平沼:いやいやいやいや、ふふ、はい。では時間いっぱいになりましたので、今日はありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

会場:(拍手)

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