千葉:これはやはり良い空間だなと思ったんです。この空間に余計な事をしないほうが良いと現場で思い直したんです。それでそこから先は、今井さんの良さをリスペクトしながら、でも、やはり変えなきゃいけない所も当然あるので、今井さんだったらどうしただろうかとか、今井さんだったらこういうのを許してくれないかなと、僕達なりに想像を巡らせて設計をしていた感じです。だから、即興的といえば即興的です。今井さん自身もね、意外とルールはあるようで無い。ここでこういうディティールだから、あっちもそうかと思って見たら全然違うディティールだったりしました。

芦澤:割りとじゃあ現場で?

千葉:そうですね。だから一つ一つ、今は亡き今井さんとの対話を重ねていくようなプロセスでした。

芦澤:ええ、うん。

平沼:そんな千葉さんが、設計されている時に一番問題に感じていることって何ですか?

千葉:設計料が安いとかそういう事じゃなくて?

芦澤:いや、それも含めて、あはは。

千葉:普段の設計では、常に自分で面白がれる新しいテーマを見つけて行こうとしているので、問題意識というのは…、もちろん今の時代に建築家が何をやらないといけないのかとか、そういう事はいつも考えていますけど。でも、建築家の社会的な地位をどうやったら向上できるかという事は、どこかで潜在的に考えていると思います。

平沼:へぇー、あーそうですか。

芦澤:そういうのは具体的なアクションというのは?

千葉:アクションは全然できていないですけど、でも、建築家の仕事はまだまだ世の中に、特に日本では浸透していないと思うんですよね。

芦澤:そうですよね。

千葉:一時期スイスに教えに行っていた事がありますが、スイスは建築家に対する社会の信頼がものすごく厚いと思うんですよ。それは見ていて本当に幸せな光景で、もちろんそんな中でも困難はたくさんあると思いますが、でも、とても健全な社会だなと思って。だからそういう社会を目指したいと思っていつもやっています。

平沼:なるほどね、じゃあちょっとアーケードの話を。

千葉:アーキエイドの話はちょっと特殊なケースなので、お見せするのも躊躇するんですが。建築家が、社会でどういうふうに役に立てるのかということが主眼です。どんな作品を作るかという事も大切ですが、日本は作品主義が強すぎると思うんですよね。例えば被災地のような状況を前にすると、作品をつくる以外にも、建築家が提供できる知恵はたくさんある。

芦澤:ええ、ええ。

千葉:ちょっとした事でもたくさんあって、やっぱり建築家は街のことや風景の事、人の事とか、そういう事をよく考えていると思います。そういう意味で、貢献できる事はいくらでもあると思ってずっと関わって来ました。その中で、今日お見せするのは釜石の仕事です。釜石は伊東豊雄さんが復興ディレクターになって、コンペなどを通じて建築家を選び、街の復興を進めていくと宣言したんです。釜石市の方々も、将来良い街をつくろうという思いが大変強く、そういう中でいくつかのプロジェクトも動いていたんですが、結果からすると、通常のとおり設計をして入札したらお金が合いませんでしたという事態が続いたんですね。プロジェクトが流れてしまうと結局、仮設住宅暮らしをしている人達の辛い生活が長引くだけです。それに対する地元の反発はものすごく強くて、建築家に対する信頼は損なわれていく、そんな状況を何とかしたいと思って、それでこの仕事に関わったんです。これはダイワハウスさんという大手のハウスメーカーと一緒に取り組んだ仕事で、公営住宅の設計です。かつて駐車場だったところが敷地ですが、そこにこういう公営住宅を考えました。当然、公営住宅なので公営住宅の様々な基準がありますし、ハウスメーカーさんと一緒にやる上では、またメーカーさんなりの基準もある。通常建築家とハウスメーカーは、何となく敵対関係ですよね。

芦澤:はい。ええ、

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