芦澤:ちょっと戻って、リチャード・ロジャースさんのとこにいらっしゃったと思うんですけれども、ロジャースからの影響とか、あるいは他の建築家からの影響というのは、ご自覚されてるところってありますか。

手塚:やっぱり、リチャード・ロジャースの影響って大きいですね。ちなみに、皆さんハイテックスタイルのとこだけご存知ですけれども、ハイテックスタイル以外のリチャード・ロジャースがすごく好きなんですね。リチャード・ロジャースの建物って、すごく暖かいって言われるんですよ。冗談で、リチャードの名誉にかからないようにといつも思うんだけど、あなたにとって建築ってなんだって私が所員の頃に聞いたら、「建築はマネー・フード・セックスだ」って言うんです。

平沼:はははは。すごい。

手塚:日本に帰って独立して、しばらくして会って飲んでたら、そういうこと言ったけど、今でも同じかって言ったら、「いや、違うんだ。もう今はね、お金ははあるから、セックス・フード・マネーだ」、すごいこと言うんですけど。

芦澤:ははははは。

手塚:だけどね、それは芯を突いていて、建築ってやっぱり人間の根本に関わるところなんですね。ロンドンにいた頃というのは、リチャード・ロジャースの事務所がテムズ川沿いにあって、もう移っちゃいましたけどね。大きなバルコニーがあって、ケンブリッジとオックスフォードのボートレースを皆で見たりとか、皆で出かけたり。その頃はまだ所員もすごい少なくて、すごいいい時代だったんですけれども。そういう雰囲気をつくろうというのはあります。建築を、建築のかたちをつくるためじゃなくて、どういうライフかってのをやるということをものすごく教わったんですね。だから、今のリチャード・ロジャースの大手事務所とは違いますね。本当にまだ小さくて、色んなことを学べた。だから、うちの事務所はそれを踏襲していて、確かにリチャード・ロジャースみたいに大きなプロジェクトできないし、たくさん給料もあげられてないかもしれないけど、普通の事務所ぐらいは給料あげられていて、子供も育てられて、一階が保育園なんですけどね。皆で毎年スキー行ったり、サッカーやったり、自転車やったりするけど。そういうアイデアはリチャード・ロジャースの事務所からもらってるんです。その影響が一番大きいです。

芦澤:保育園をやられてるんですか?

手塚:保育園は経営しないですけど、

平沼:ははは。

手塚:面白がって、一階に入ってきちゃった。うちの所員は夫婦ともに建築が多いんですけど、下に子供を預けて、上で仕事して、夕方になると奥さんなり旦那なりはどっちかが帰って子供の面倒みるってことをやってます。

芦澤:いい環境ですね。

手塚:ね。

平沼:すごいなー。
建築家の役割はなんですかね。

手塚:建築家の役割っていうのは、やっぱり、皆さんを幸せにすることですよね。よく言ってるのは、あなたが幸せを知らずして、どうして幸せをつくることできるんだ。だから、日曜日に仕事をしてると、とにかく帰れというんですね。夜遅く仕事してると、帰れ。「手塚さんそんなこと言うと、仕事が終わらないですよ。」「いいよ、仕事終わらなかったら、俺のせいだから」っていうんですけど。そういってもね、仕事できなかったら怒ったりするんですけど。はは。

平沼:はははは。恐い。

芦澤:ははは。それは恐いですね。

手塚:だけどね、すごい大事なことで、私がそう言わないと皆帰らないですよね。皆帰らないから、しょうがないから朝遅くして、10時まで来るなっていうんですね。早く来たら早く帰ってもいい。だから、早い人は7時とか8時に帰っちゃったりするんですけれども。当たり前の生活をして、どういうのが幸せかって解ってると、人に色んなことをしてあげられる。バーベキューをやったことないとバーベキューができる空間を知らないし。料理をやったことないと、料理ができる空間できないし。スキーやったことないとスキーの空間はわかんないし。そういう意味で、建築家は人に幸せを与えることとよく言ってます。

平沼:今後、アーバンデザイン、シビックデザイン、色々と発展されていくじゃないですか。仕事の規模も大きくなっていって、どんなようになっていくべきなんですか。

手塚:都市空間は今、東急プラザという渋谷駅の一部の超高層と、それからその後ろの空間とかをやってるんですけども、とにかく私が言ってるのは、都市にはやっぱりdiversityが大切だと。多様性。都市計画というと、全部のプランニングがされたものが主流になってたんですけど、そうじゃなくて、多様性があればあるほどいいって。そうでしょう? めちゃくちゃだけど、ドンキホーテも楽しいでしょう?

平沼:ふふ。確かに。

手塚:私は、きれいに並んでるお店ってそんな好きじゃないですよ。テーブルにちょんと、ちょっとずつ置いてあると、絶対こんなの買ってやるかと思うんですよね。そうじゃなくて、ドンキにいって、ライトセーバー買うの大好きですよ。

平沼:ははははは。

手塚:わかります?楽しいでしょう? やっぱり、世の中ってそういうもんと思いますね。飲み屋もきれいにしちゃうよりも、もらいもんだけでみたいな、ごちゃごちゃして楽しいですね。都市計画ってそういうもんだと思ってます。人種も、それから宗教も、多様性がある。それが鍵だと思います。

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