山本:あれは真ん中に大きい本棚があります。
ここは夏は涼しいし、冬は暖かいので、近くの人たちがみんなここに遊びに来るんですよね。 本もあるしね。基本的にワンルームですね。

芦澤:そうですね。かなりトップライトからの光を落としているんですか?

山本:これは窓から、横から入ってきている。これはトップライトからですね。光の入り方が結構面白い。

芦澤:熱負荷が大きそうですけど、その辺はなにか。

山本:床から吹き出していますよ。居住域しか冷暖房してないので、それはそんなでもない。埼玉県立大なんかだいたい同じくらいの大きさなんですよ。それで図書館だけですからね。

平沼:あらためてすごいですが、これもコンペですか?

山本:コンペです。

平沼:コンペの勝率はいい方ですか?

山本:最近負けてる。
これは外の石のルーバーなんですけどね。市長から石を使えっていうふうに言われて。いやだなあと思いながら、石をルーバー状にしてたの。

芦澤:地元の石とか。

山本:きれいな色じゃないんですけどね、ちょっと黄色っぽくて。夜はきれいなんだけど。

平沼:山本先生が建築を設計していてどんなことに問題を感じますか?

山本:問題だらけです。毎回、何かやれば解決しなきゃいけない問題がどんどん増えてくでしょ。一つ決めると、それに応じて三つか四つ、問題が出てくるね。

芦澤:問題設定って毎回プロジェクトごとに変えていかれる感じか、それともある共通の問題をずっとやってらっしゃるのか、どうなんでしょうか。

山本:集合住宅の場合は、かなりやりたいことがあるのでしますけど、他の建築はその都度ですね。

平沼:現代の社会における建築の役割をどのようにお考えですか?

山本:それは今ね、ちょうど原稿を書いたばっかりなんだ。 デザイン・ビルドって知っている?

芦澤:デザイン・ビルド、はい。

山本:今度のオリンピック施設の内の3つを、東京都はデザイン・ビルドでつくるっていってるんです。それは何かっていうと、基本設計までは建築家が設計するんだけれども、そのあと実施設計と工事は一体で工事会社に渡しちゃうんですよ。

芦澤:組織事務所。

山本:組織事務所なのか工事会社のインハウスでしょうね。それで、設計した建築家は、そのあとアドバイザーみたいな形でしか関われなくなるんです。そういうのがあって、それでこの前、建築家協会でみんなで会って話をして。それに関する文書を、僕が今度のJIAマガジンで書いたんですけれども。デザイン・ビルドは東京都が決めたんですよね。要するにどういう契約システムにするかっていうのは東京都の側が決めるわけですよね。各自治体は、自分たちでどういう契約にするか決めているでしょ。それに対して我々は従わざるを得ない。そういう構造が本当にいいのかっていう話を、僕は書いたんですけどね。公共団体、公権力を持っている人の命令に従って契約して、命令に従っている。デザイン・ビルドのほうが東京都は良いって言うけども、それは東京都にとって都合が良いわけですよね。

芦澤:向こうの立場ですよね。

山本:そこの住民たち、あるいは実際に利用する人たちに対して、どんなふうに今後話していくのかっていう視点が全くないんですよ。つまり基本設計を考える設計者はそういうことも当然考える訳でしょ。でも、そこから先、そういうことを考えた建築家が外されて、ゼネコンとインハウスの設計者だけで建物をつくるということは、工事の効率のことしか考えていないということです。周りの住民たちとか、そこを使う人たちのことを本当に考えているのだろうか。

芦澤:住民参加のようなシステムは一切…

山本:実際できないですよね。

芦澤:ええ、取り入れられないですね。

山本:新国立競技場も同じ問題を抱えて、ザハ事務所が基本設計だけやって、あとは誰が決めているのかよく分からない。それでああいうデザインになりましたけど、そのプロセスを我々はなんにも知らないでしょ。そういう形でデザイン・ビルドみたいなことをやっていくと、ほとんど使う人たちに対して説明することができなくなっていくつくり方になると思う。その建築の思想はどこにあるのか、誰が責任をとるのか、分からなくなる。今、建築家っていうのは、行政から見れば、自分たちの言う通りにやる人って意味ですよね。

芦澤:いいように使われているってことですね。

山本:現実にそうでしょうね。色々調べてみたら、今、日本の公共工事の7割が入札なんですよ。入札っていうのはお金が安い事務所を取るってことですよね。たぶん大阪でもそういうこといっぱいやっているんじゃないかなと思うんですけどね。入札で設計者を決めるような方法でいい建築ができるわけがない。それは行政側が決めているわけですね。そういう建築家っていうのは、行政の言う通りにつくる人っていうのは、一般の人たちからの見方は行政の言うことだけ聞いてつくる人っていう意味だと思うんですよね。だからあんまり建築家ってどっからも信用されてない。ここにいる多くの人が建築の専門家だと思いますけども、一般の人たちは、建築家たちが今日話しているような話をしているっていうのを夢にも思わないと思いますよ。たぶん役所の命令でつくっているだけの人たちだなって。あるいはマンションつくるときは、ディベロッパーの言う通りにつくっている人っていう…ちょっとおしゃれな外観つくって、ね。

芦澤:多少お金もらって・・・みたいなですね(笑)そういう見られ方をしていますよねえ。

山本:だから、そこは変えていきたいって思っていますけどね。

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