芦澤:小さい住宅の中でもいろんな環境ができていると思います。その辺の植物のセレクションはどのように考えられているのですか?

西沢:最初は我々がやりましたが、今はお施主さんもやっています。あとはやっぱり植物の弱肉強食の世界で、下の方の暗いところにはそういうところで育つ植物しか育たないということで、淘汰されていますよね。

平沼:この質問聞いてもいいですか?「思想、哲学、文学など他の分野から影響を受けられることはありますか?」

西沢:いろいろなものから影響を受けましたけれど、僕はやっぱり音楽とか、詩が1番ですかね。映画とか文学とか、本とか、好きな物はいっぱいありますけども、音楽はあらゆるものが好きですね。クラシックからジャズミュージックから、ブルースから、何でも好きです。
これは小豆島のプロジェクトで、神社に喫茶店を建てるものです。建てるのは基礎を造るので、神社の境内に建てるのは凄い抵抗感があって、ただ、屋台が村祭りで並ぶみたいに動く建築なら面白いかと思いました。基礎のない建築を目指すわけですね。
普通は、建築は動いちゃいけないので、 建築と地面が接する面積を 最大にして、抵抗を増して、なるべく動かないようにする。しかし動くべき建築っていうのは、逆に地面と触れているところが最小の方が動きやすいわけですよね。そういう動かし易そうな建築を目指すと、こういうカーブ、ボートの底みたいな形になる。2枚の鉄板を重ね合わせて、四つ角でくっついているのですけど、この部分は垂れてくる。上の鉄板が屋根になって、下の鉄板が床になるわけです。お互いにお互いを支え合っているような構造ですね。これはアラップの金田さん が構造設計です。 金田さんのブリコラージュ的な才能が凄く発揮されたものだと思います。例えばディテール、角を留めるために、このシャツのボタンみたいに留めるわけです。普通に留めるとずれが起きるので、疲労が怖いという即物的な理由ですけど、ボタンで留めるのは簡単ですね。ただ、たわんでいくような構造なので、端を相当高くしないといけなくて、7m位の高さですね。真ん中で低くなっていくので、神社側の端っこのほうはもう 子供しか入れないくらいの 感じです。カフェといっても 遊び場みたいなものになったのですけど、横に神社の建物があって、その基壇の高さに合わせるためにこっち側を落として、室内は狭くなる。中も外もないような感じになります。

これは千住博さんの美術館です。軽井沢で、カーブして高低差がある地形です。高低差を造成すると環境破壊というか、環境に対立している感じが出てしまうと思ったので、傾斜はそのまま床にしました。違うカーブの屋根をかけて美術館にしたというものです。屋根を支えるための構造体が出てくるのですけれど、それが展示壁になって、床が自然の地形のままなので、複雑にカーブしています。展示壁は台形にできなくて長方形にしなくてはいけなくて、この地形に沿って並べていくわけですね。それが敷地の中に並んでいくわけです。壁が展示壁以外に存在しない美術館ですが、外がそのまま見えるのではなくて、布を張って、外が何となく見える。一つは、千住さんがいつも暗室で展示していたので、明るいところで展示したいという千住さんの要望 もありました。もう一つは千住さんの作品が自然をテーマにしているものだ ったということもあって、軽井沢の美しい自然の中で千住さんの作品を感じられる美術館になりました 。全体的に緩くカーブしていますが、それほどの急な坂ではないです。作品と作品の間に中庭があって、緑があって、自然を見ながら 次の作品を見に行く美術館ですね。

これは今、山形県の鶴岡市でやっている音楽ホールの計画です。旧 藩校が建っているような歴史的な建造物が並ぶ美しい地区に、大きな 多目的ホールをつくる計画です 。鶴岡市は凄く文化度が高いところで、市民全員が一度はこの舞台に立ったことがあるそう です。 既存のホールがあって、それの建て替え計画です 。演劇 もやるので、30mを超すフライタワーが必要で、その大きさ は町との調和という意味で大きな課題 でした。我々はホールを中央において、外周を公共空間にして,フライタワー自身は30mを超す巨大な物ですけど、なるべく周辺への調和を考えて、通りから離した。そして屋根を分割して、通りに行くにしたがって高さを下げているわけですね。
これはホールです。 ハンス・シャロウンのベルリンフィルハーモニーに行かれた方の多くは、ワインヤード形式というホールに感動します。 世界で最もすばらしいホールのひとつで、全部が続いているわけですね。コンサートが終わって、人々が感動してカーテンコールになったときに、みんながそのまま舞台まで降りてこられるわけです。2階席の人が一旦ホワイエ に出て一階まで降りて再びホールに入ってくるのではなくて、二階から一舞台下までそのまま降りて来れる。演奏者と観客との一体感が凄くあるもので す。それにインスパイアされて、ワインヤード形式は是非やりたいと思っていました。 ワインヤード形式でみんながつながっているので、観客同士の一体感や、演奏者と観客の一体感があって、そういうホールらしいホールがつくりたいので、こういう形にして、その周辺を公共空間が巡っているわけです。彼らは観客でもあり演奏者でもありということで、全部つながっているわけですね。

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