平沼:もう一人ぐらい質問をどうでしょうか。

会場2:建築を学んでいます、3年生の藤本と申します。藤本壮介さんのお話しのなかで、自分の役割が、新しい提案をして新しいスタンダードをつくることだということでしたが、僕たち学生時代の役割は、こうあるべきだというか、こういう風なんじゃないのかなど、ご意見を頂けたらと思います。

藤本:若い人は、僕たち世代を、蹴散らすぐらいにパワフルな新しいものを作って、そして、僕たちの世代を過去のものにしてしまって、歴史を引き継いでいってほしいなと思います。もしくは僕のためによく働くか(笑)、どちらかだと思います。例えば、今20代の人たちは、僕が見えてないものが見えている。確実に見えている。そこから建築をその人なりに発想して、こういうことがあるのではないか、こういうのが面白いのではないかということを、バンバン・バンバンだしてくれると、僕たちも面白いし、なにくそ!と奮闘する勇気が湧いてきます。そういうのが、なんかいいなと思いますね。

芦澤:スタッフにもそのように求めておられますか。

藤本:求めると建前では言いつつ、やることはやれっと思います。先ほどのサーペンタインの話でもありますが、僕だけがつくるというのも限界があります。投げかけて、何か言われて、それに対して更に言い返すみたいな感じの中で、ぽろっと、自分なのか向こうなのか言ったことから、それはもしかして!という何かが起こるので、常にそのインタラクションの中からこそ建築は生まれてきます。

平沼:この巨大なプロジェクトについて、教えてください。

藤本:僕が最近一番好きなプロジェクトです。これは建ちませんでしたが、中東のある王様の気分により始まって、気分によって止まりました。巨大な1.5kmぐらいのショッピングストリートをつくるという計画です。中東なので、こういうアーチを使っていますが、ベースのストラクチャーというのは、実はサーペンタインと一緒です。グリッド格子がかみ合わさってできています。光のフィルターがまさに先ほどのように落ちてきます。この吹き抜けは、勿論1.5kmもあるので、ふわっと上がるところとショッピングモールのザーッと下に落ちるところを作りだすという目的と、自然換気を作り出すという目的の両方があります。さらにこの外側のグリッドは、内部空間が一個、外皮が一個奥まっているので、全部日除けとして効いてきます。中にはこういう風に、湖みたいなものを内包したような、巨大の吹き抜けがある提案でした。

平沼:最後のご質問。もうひとり、手が挙がっておられましたね。

会場3:はい。今の作品を見ていて、経年変化(時間)について聞きたいなと思いました。どういう風に建築が年をとっていくようなイメージを持っていらっしゃるのか、その点についてのお考えをお聞かせいただければと思います。

藤本:僕は、建築をずっと人が世話をして、年をとらないというのが一番いいなと思います。年はとるけど、ペンキ塗り替え、補修をしていく。例えばコルビジェの建築は80年ぐらい前のもので、ぼろくなっているものもありますが、次の年に行くと、真白い新築みたいな壁になったりもします。ひたすら誰かが愛情をもって、それを行っている。バラガンの建物を見に行ったときに、バラガン財団の人が、「毎年塗らなきゃいけないので、大変なんだよね。」と言っていました。でも、それをやり続ける人がいて、その鮮やかな色に感動する訳です。建築ってどんなに丈夫に作っていても、10年放ったらかしにしておいたらぼろぼろになってしまうんですよ。このあいだエストニアで、10年前まで使われていたソビエト時代の巨大なコンクリートの塊みたいな建物を見ましたが、ただの廃墟なんですよ。いくらコンクリートで丈夫に作っても、誰も手を入れなかったら10年ぐらいで建築は崩れていきます。勿論、材料とかで味わいが出てくるのもいいなと思いますが、一番大事なのは、人がそれを世話し、愛情をもって次の世代に引き継いでいって、いつまでも昨日生まれたかのような感じで人と共にいるというのが一番幸せなのではないかという気がします。

平沼:この質問で最後にしようと思うのですが、若い方たちも大勢、会場におられます。
藤本さんが想う建築家というのはどのような職業ですか?

藤本:これ一言でうまく答えないといけないやつでしたっけ?。(笑)えっーと。
建築の過去を引き受け、建築の未来に受け渡していく。そういう仕事なのではないかと思います。

平沼:今日は、どうもありがとうございました。

藤本:こちらこそ、ありがとうございました。

芦澤:ありがとうございました。

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