藤本:それに少し近いところはあります。この家は、床が小さいです。一番大きい床でも2.4m×2.4mとか、4畳半もない床で、小さい床だと1.4m×1.4mという場所の組み合わせです。普通は住めないようなサイズですが、うまく段差をコントロールし、広がりを作って家にしています。そのような感じは、東京の街ができている感じととても近いのではと思うんですよね。都内に建っていますが、周りから見ると見かけとしては周りとずいぶん違うんだけど、でも近くに商店街があって、その商店街の、最初に見せた写真のような、小さいものがたくさん集まってい場所が出来ているような、その感覚にとても似ているところがあると思うんです。東京の街の出来方と同じようなやりかたで家が出来ている。そういう意味では、見かけはコンテクストとズレているように見えても、根っこのところで、本質的な意味でのコンテクトに繋がっているのではないかと思います。これは写真を撮ったときにカーテンを外したので、透明なスケスケだけが注目されていますが、実際はカーテンがついています。カーテンも、外壁のガラスのところだけについているのではなく、1つ内側にはいったレイヤーのところや、2つ内側に入ったレイヤーのところにも、お施主さんが考えてアレンジしてくれたんですよね。そのカーテンの感じを最初に見たときには感動しましたね。この家の作られ方ととてもよく合っている。一枚の強い面としてのカーテンじゃなくて、幾つもの違ったカーテンの断片が寄り集まって場所の濃淡が出来ているというか。
生地もお施主さんそれぞれ違ったパターンを選んでくれて。今思うとカーテンがついている状態で写真を撮ってもらった方が良かったですね。少し半透明になり、しかも家の中に奥行き感が出てくるので、実際に行くと、カーテンが作りだすスケール感とこの床が作り出すスケール感がすごく合っています。

芦澤:藤本さん自身もすごい気になさっていると思いますが、周辺のいわゆる一般的に言う住宅地に対して、かなり異物的な存在になっているように見えます。住宅を我々建築家が設計する時に、そういう異物を挿入することは、70年代、伊東さん安藤さんがされていました。あえてそういう異物を作る手法でやられていたと思いますが、どちらかというと最近の建築家は、もう少し周辺環境を見ながら、そこの隙間や街並みの連続とか、近視眼的に作っているようなところがあると感じています。藤本さんはすごくそのあたりの姿勢が、違うなと思いますが、そのことについてどう考えていますか?

藤本:東京の街は、裏の家や隣の家も20年経ったら違う物になっています。そうすると、それによりかかっていてもいけない、むしろ、手前にある電線や近所の都市の作られ方、成り立ちのような、東京の本質みたいなものを建築に翻訳していかないと、難しいのではと思っていいます。そういう意味でこれはかなり攻め込みました。でも一方で、東京はそういう街なのである程度割り切れますが、ヨーロッパの街に作るとなると、パリの街に行ってそういう理屈をこねくりまわしても結局パリはパリだから、そういう時には僕もそこに調和しながら、どうやってそこに新しい価値をつくり出せられだろうかという考えをすると思います。決してコンテクスを単に否定することもなく、でも直接的にそれに合わせることだけが正解なのか、むしろ僕は、広い意味でのコンテクストという、たとえば気候条件とか、都市の歴史的何かとか、文化的なこと、そういう物から、近所を歩いて気になった、こういう電線カッコいいよね!とかを含めて、何かしらのヒント、またはインスピレーションは受けたいと思います。それをなるべく繋ぎ合わせるようにして、過去を引き受けていくことに繋がり、繋げ合わせた上で最後にジャンプさせることを心がけています。ただこれの場合は、最初に思いついた、こういう方法があまりに魅力的で、それを実現できたらおもしろいだろうなという思いも強かったですね。それがいろいろ考えていく中で、東京とか現代性とかに繋がっていった。

平沼:藤本さんが建築を白く塗る理由は、ある抽象化をはかろうとされていますか?もしそうだとしたら、その抽象化は、どういうところへ意識を運びたいとか、どういう物質の消し方をしようとしているのかをお聞きたいです。

藤本:抽象化の問題ですね(笑)、、、僕は、抽象化という意味が実はよく分からないのです。自分では少なくともあまりしているつもりはないです。僕にとって建築って、どこまでも具体的なものなんですよね。さきほど言ったように、お施主さんがこういう生活していますとなれば、色んな場所を作ったらいいのではないかと、具体的に考えます。色んな場所を作るには小さい敷地を細切れにしてレベルを変えてくといいよね、と具体的です。レベルを変えて作った時に、柱が太いとなんか居心地悪いので、なるべく柱は細いほうがいいとなり、床も座った時にあんまり厚いとスケール感がバランス悪いので、薄いほうがいいよねとなりました。薄さ自体に価値を見出している訳ではなく、そこに居心地とかスケール感とか、スケールの調和、そういうものを考えるとこういう方向になっていきます。じゃあどうして色を白くしたのとなると、ひとつは、材が細いのが理由です。例えば、材料が元々鉄なので、たとえば亜鉛メッキのシルバーという色はあり得ますよね。ただ、メッキの色だと、本当にこの横に立っているこの電線の引込み柱とたいして変わりません。沈み込みすぎるのも寂しいと思ったのです。写真に撮った時にせめて、作ったのはこれなんだな、分かってほしいな、と思ったんですよね(笑)だってぜんぜん見えなくなったら寂しいじゃないですか(笑)

平沼:New oneということですか?

藤本:(笑)どうでしょうか。例えば写真の中で、僕が作ったのですといっても、「はぁ?」みたいになります。これは思い入れがあったのもあり、どれを作ったのか分かんなくなってしまうのもどうかと思い、白色にしました。だから全然抽象的ではない、僕の欲です(笑)。中の色は、天井は白いほうが、室内が明るくなるからいいなという程度です。だから僕の白い色にはあまり特別な意味はないです。どうしてサーペンタインは白いかというと、圧倒的にグリーンに映えるのは白です。最初は、ステンレスのパイプで作って鏡面仕上げにしようと言っていました。ですが、ジュリアに「そんな金はない!」と言われて(笑)あとは、光によって表情が一番変わるのも白だと思います。これは物でできているけれど、見えてくるのは、ほとんど光です。鉄のパイプですが、最後は光の密度だけが自分の周りを取り囲んでいるみたいな、そういう見え方になるだろうと思い、白に決めました。

平沼:それは光の反射だったり、影を落とすから抽象化をしていると言っているのではないでしょうか?

藤本:でもそれは具体的じゃないですか。白に対して、抽象的というよりは具体的な体験と重ね合わせて、そういう風に物が見えたら、このグリッドで作った空間が生きるような、という発想です。建築において、観念的な部分が全然ないのです。

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