藤本:そう。それで、いろいろ聞いていたら、年内にはアイデアを固めないとダメよ!みたいに言われて、えー、そんなすぐに?!って思いながら、

平沼:1カ月間の期間でですか?(笑)

藤本:(笑)はい。1月にそのパヴィリオンの確認申請のドキュメントを作って、2月に実施設計して、3月からもう作り始めないと間に合わないからとかって言われて。「で、やれるの?」とかって言われて。いやいや、でもやるしかないでしょって。

平沼:うんうん。

藤本:それで戻ってきてすぐにスタッフとわーってやり始めたんすよね。結構大変でしたね。ジュリアさんの写真もってくればよかったなあ。強烈なおばちゃんで、今やもう大の仲良しになったんですけど、当時の電話とかでね、こうスケッチとかを送るじゃないですか、そのあとすぐに怒りの電話がかかって来るんですよ。

芦澤:(笑)

藤本:ただ、電話で英語だから何を言われているのかよくわかんないんだよね。(笑)最初に送ったスケッチ5枚、4案か5案ぐらいあったんですけど、「サーペンタインギャラリーのクオリティーに全然達してないわ!」みたいな感じでダメだしたくさん言われて、それで、何がダメなんですかって聞くと、「…藤本っぽ過ぎる」って言われてものすごく怒られて。
とにかく新しいものが欲しいのよ、みたいな。

平沼:あぁ、とても厳しいですね。

藤本:確かに2週間で提案を送っていて、僕たちも今まで考えたアイデアとかも取り入れて総動員していたので、そういう提案もありましたね。それで次の週に送ると、また電話がかかって来て、ジュリアさんが、ノー!とかって言っていて、
次、何が問題なの?って聞くと、藤本建築からかけ離れすぎているとかって言って、でもその前の週は藤本っぽいのダメって言ったじゃんとかって一応、反論とかしたんだけど、そこでまたギャーとかって言って(笑)。結局僕たちがやりたいことをやるしかないんだなと思いました。
やりたいことっていうか僕たちが20年ぐらい、僕が事務所をつくってから、ずーとやってきたことの根っこみたいな物、そこからどう未来につながってくかみたいな、ちょうどその間ですよね。
そういうものを求めてるんだなぁってなんとなくわかったんですよね。その要望って嬉しいじゃないですか。中途半端に今までやってきたもんだと、もう絶叫してノー!って言うしね。
ただ最終案も、模型写真だけだと、これが建物だってなかなか伝わらなくて。
何なのかが全然見えないとかって言われたり、そのもやーっとしているところが面白くて。プランとも送ってあるんだけど、もやーっとしてわかんないから、はっきり書いてとかって。

平沼:なるほど。面白いですね。

藤本:それで、最後的にジュリアさんが、「もう写真見ていてもわからないから、私行くから!」って言って日本に来たんですよ。来てくれるのはありがたいけど、お正月の3日とかに来るって言いだして。年末年始ですけど、来た時がもう勝負だから、その時にイエスって言われるように、模型を準備したり、もっとスタディしたりっていうので年末年始が全部つぶれて・・・。

平沼:大晦日もですか?

藤本:大晦日は僕だけ実家でいろいろな用事があって帰らないといけなかったので、1泊でだけ帰りました。うちのスタッフは全員大晦日も事務所で、少しセレブレーションみたいなものはしたみたいですけど。

平沼:さすがにそうですね。

藤本:それで、3日の日に来たんですよ。そして見た瞬間に、「はっ、これだわ!」みたいな感じで素直でピュアな人なんですよね。ダメだと思ったら「ノー!」って言うし、いいと思ったら「すばらしい!」みたいなね。

平沼:なるほど。

藤本:そういうジュリアさんが、こういうギャラリーの代表をしているって、やっぱりイギリスってすごい国だなとか思いながら進めていったんです。全然建築の話していないんだけど。(笑)

平沼:いやいや。

芦澤:ははは

藤本:初めて見る方もいるかもしれないのですが、これは2cmの鉄の角パイプを、格子状に溶接して組み合わせて、わかりやすくいうと、構造がジャングルジムみたいになっているんですよね。モジュールが40cmごとにグリッドが入っているところと、80cmごとに入っているところがあって、それによってもやーっとしたこういう全体像で進めていました。
パヴィリオンの中の空間は基本的に、カフェなんですけど、レクチュアとかイベントとかいろいろマルチユースに使えるような場所でもあったんです。透明なポリカーボネートのディスクを使って屋根をつくっているパヴィリオンです。

平沼:うんうん。

藤本:今までの建築のような壁があったり柱があったり何があったりとかと違った、全部もやーっとした空気の厚みみたいなもので建築をつくって、そこに人のよりどころがいろいろ生まれてくるようなパヴィリオンです。
そして内部と外部空間の分かれ目も、境目もないような空間で、実際に行くと、このグリッドがいっぱい重なっているから、壁みたいに囲まれている感じがあるところもあるけど、薄いところはスーッとそのまま外に抜けてくようなところもあったりします。しかもそれが立ち位置なり座り位置によって全然違うんですよね。だから中を歩いていると壁の在り処とか、壁の厚さとか、透明な部分っていうのが常にうわーっとゆらゆら動いている感じで、中に入っていくと、建築自体が揺れ動いているみたいに不思議な場所になりました。

 

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