芦澤:今説明して頂いた内容に少し突っ込んで聞かせていただきたいのですが、場の力を読み取ってそこから空間を立ち上げていくという時の、空間の作り方、それが高崎さんならではの手法があると見受けられます。完全な自由曲線ではなくて、ある幾何学的なコントロールがなされているのでしょうか。

高崎:これは交流広場っていうのですけども、屋根の曲線がカージオイド曲線っていって、心臓の形の曲線です。僕のベースにあるのは、人体の幾何学を建築に応用したり、いろいろなものを応用したりすることです。

平沼:かなり深いスタディだったり、スケッチだったり、描かれますか?

高崎:スケッチと模型はかなりやります。幾何学の美しさを追求しているので、平面図は絵と同じで、幾何学を用いたメッセージとなります。その時代の思潮やその人の哲学が反映され、平面図は単に建築の図面としてだけではなく、1つのメッセージとして構築されていきます。

芦澤:スタディの方法として、何パターンも出されるのでしょうか?

高崎:いえ、方針が決まると1つだけをみて再考に再考を繰り返します。深く追及することにより結果がついてくるのです。パターンは作らないです。

平沼:構造の松井源吾賞をとられていていますよね。

高崎:コンクリートというのは結局鉄筋を組むことです。その鉄筋の組み方の美しさは、そのまま線の美しさにつながってきます。そこを意識して空間を作っていきます。

平沼:現代社会における建築家の役割をどの様にお考えかを聞かせてください。

高崎:建築家に限らず、現代社会における人間の役割を追求するという解釈をしていただけるとすごく分かりやすいと思います。現代は、グローバル社会ですので、経済もグローバル化していますし、情報もまた然りです。そういう状況で、個の人間は本当に取るに足らない時代に入ってきているように思います。ぼくらの時代は「社会の歯車」という言葉を使いましたが、もう歯車にもならなくて、どんどん人間が疎外されたまま突き進んでいく状況にあると思います。そういう中で、人間として、建築家として、社会にどういうメッセージを渡すかがすごく重要だと感じています。ただ単に建築を設計して作ってビジネスをする、というものには職業的に物足りなさを感じます。いろんな職業を通して、他の人類にどういうインスピレーションを与えるか、どういうメッセージを与えるか、どういう語りかけをするか、というのがすごく重要な時代に入っているのではないかなと思います。

平沼:建築と自然との関わりをどの様に考えていますか?

高崎:僕らの学生時代は、地球イコール石油とか石炭っていうレベルで、資源は無限だと思われていました。ところが地球は無限ではなく非常に小さな星で、全てが限界を超えて、温暖化問題とか原発問題とか、いろいろな弊害が起こっています。ですから、自然ではなくて地球をどう意識するのかということははすごく大事だと考えます。かつ、僕は田舎で育っていますので、自然というものは非常に身近な存在です。その自然のなかの要素、土や水、人、風、空などを建築の中で表現したいと思っています。抽象的ではなく具体的な視点で自然を見ているわけです。

平沼:もう一つ聞かせてください。

高崎:これはですね。人口が約5000人のいわゆる限界集落で作ったコミュニティーセンターです。この写真は空からヘリコプターを飛ばして撮りましたが、上空からを撮ってみると、宇宙の人が人間の営みをどう見えるのがすこし分かってきます。宇宙時代っていうのは僕が子供の頃よく使われた言葉ですが、いつかは、地球に住む日本人と、宇宙に住む日本人が出てくるのではないですかね。宇宙の中でどう生きるかとなった時に建築は空からも見られていることを意識しなくてはならないと思います。もちろん下からも横からも見られるけれど、その空の建築をどう投影したいかということも考えながら造っています。この線の動きは、故郷の懐かしい山の形、あるいは段々畑の形とか。そういうものを建築の中に反映させたいので、こういう柱が出ていたり、沖縄の首里城を向いていたりとかしています。これは天孫降臨地の高千穂へ向かっています。すべて地域の人が大事に思っている場所と建築を位置づけながら風景の線を切り取りながら、建築においての機能の要求も満たし、構築していくのです。

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