平沼:ここでいくつか質問良いですか。

芦澤:プロジェクトの最初に話してくれた襞というか、からまりしろを増やしていくといったそういうことをしていく試みだと思いますが、人間のために自然環境を作るための素材として使っていらっしゃっていて、パッと見で、どう扱われているのかが少し気になって。具体的に土の断面がどういう感じになっているのか、土の質はどのように感じているのか、緑にとってはからまる拠り所になってくると思うので、メディアを増やすことについて考えられてることってあります?

平田:例えば、レンガを積んだ建物の遺跡みたいなのの隙間からその植物が生えている石垣とか。その植物が生えることによって、最初は狭い隙間だったのが、少しずつ生えたその植物の枯れた葉がちょっとこう、こびりついて、こびりついたところにまた生えて、もこもこしてきている所が部分的にあったりといったような状態を想像してみて下さい。それは 建物が半分「発酵」して いる ようなことに近いかなと思ってるんですけど、僕はそういうの、割と興味深く思うんですね。 地面の土がずっと連続して上まで上ってきているのが理想ですけども、これくらいの規模の建物は目地にこびりついた植物の延長みたいなものとして考えていて。実施 設計で、 断面が三角 のポケットのようなものを考えて、土が入るように形が調整されているんですね。土は 軽量の土で雑草の生えにくいものを使う予定です 。目地にこびりついているくらいでいいよねみたいな。そこで人も快適に暮らせればいいのではないかと。

芦澤:より自然に近い状態に見えるから、そういう感覚で見た時にからまりしろの建築というものが、いままでの白いペンキ、白い石でとかではなんかもの足りないのではないかと思うところもあって、建築がそのひだになっていった時に、表面積を増やしたり、形態的にからまる種をするのが大事だと思いますけど、その物質の組成とかすごくこだわるべき所じゃないのかなと思って、平田さんはどう考えていますか?

平田:素材の問題は僕も興味があって実際の設計にも反映させたいと思っています。ただ一方で、単に素材を味のある、アンチモダンな感じにしていくってのも、ちょっと違うのかなと感じています。
20世紀のモダンな建築ってすごく特別な物 で、それに対抗した建築をつくるべきである、という見方もあるけれど、もう一方で、例えば普通の民家、ある特定の年代につくられた石造の建築であるとかそういうものと同じように 、ある特定な年代に作られた建築にすぎないと見ることもできますよね。モダンな建築であるとか、ツルっとした素材 感がつくり出してきた ものも、今日の都市の豊かさの一部になって堆積しているのかもしれない。それを 無視したり単に反抗することがはたして豊かなことなのか 。
要するに 僕らはつるつるとした素材感も 時には良いなとか、ガラスが反射していて凄くかっこいいな、という感受性も持っていると思うんです。 それを完全に排除するのもちょっと違うん じゃないかという気もしています。もっと 本当の意味で混ざっていることの方が新しいというか、豊かであるように感じるんですね。自分が 知っている 様々な異なる出自をもったものたちに、どういう共存の仕方を与えるのが一番良い か。そう いうのを建築でもう一回見える形にしてい きたいです。自分で良いと思えるバランスというか、状態を素直に作ればそこに何か発見があるのかもしれない し、完全に決めてしまうことを避けた方が自由になれるのではないかと感じています 。

平沼:これは賃貸ですか?

平田:はい。基本賃貸です。賃貸の部分が10戸くらいです。お施主さんの住戸とお施主さんのお母さんの住戸は賃貸ではないです。不特定多数っていう感じがかなり薄い賃貸です。

平沼:平田さんご自身で、個性はどのようなところにあると考え、感じられますか?

平田:僕はもともと科学者になりたかったというメンタリティなのであまり個性はどうでも良いと思っているんですね。科学者はいままで見つけたことのないものを自分が最初に取り出したっていうことの喜びがあると思いますけど、似たような感じですかね。前の人が積み重ねたものを使いながら自分が考えて、でもこう考えてることが次にまた深い影響を与える。自分がどうでもいいなんて言っている訳ではないんですけど、個性とかってものはどうでもいいんじゃないかなって思っています。

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