平沼:今日も来てくださっている写真家の繁田さんと谷尻さんのつくった住宅を見に行った機会があって、これは住みにくだろうな、というような住宅へも連れて行ってくれたこともあるのです。僕はずるいからその住宅の施主さんに、ぼそっと、谷尻さんのいない隙に住めますかね?とお聞きしたら、快適に住んでいます!って普通にお返事くださるのです。(笑) 
だからね、かなりそこは、ケアをされているというか、きちんと説明の求められた時に谷尻さん自身がキッチリ話されていて、その使い方までも、ちゃんと言っている気がしました。

谷尻:そんなことも聞いていたのですね。(笑)
施主さんとのコミュニケーションはやっぱり沢山、とるようにしています。その人の価値観を知ることをできるだけするというか、だから家の話をするというよりは、その人の人生観を聞くために打ち合わせをしているって感じがします。

平沼:なるほどですね。

谷尻:その人がどういう価値観で生きてきて、どういう価値観でものを選んでいるか、ということを、見ることで、この人だったらこういう住宅も大丈夫だろうとか、この人はちょっと、攻めたらなんかクレームになりそうだなとか、そういうことを感覚的に読み取りながら、出し方は決めているかもしれないですね。これは今計画している別荘のものです。川の近くに結構岩ばかりで、おっきい岩があったりするので、岩みたいな建物を設計しているのですが、これも、すごく最近思い通りにならないってことに興味があります。作り方ですが、これは発砲スチロールをですね、積むんですよ。発砲スチロール積んで、配筋して、吹付コンクリートで作ろうとしています。それで、やっぱりこれ、川のところで車も入って来られないので、要は発砲スチロールなら手で運べますし、廃棄も手で運べますし、吹付コンクリートはポンプ車でポンプ長くすれば施工できるので、そうやって、土木的な技術と、新しい工法を組み合わせています。発砲スチロールは断熱性も高くていいです。

平沼:発砲スチロール構造ってことですか?

谷尻:はい。以前に発砲スチロールの塊を掘って、少し掘ると、シンクが出来て、もっと掘ると浴槽になって、座ると椅子になるみたいな、もっと掘ると部屋になるっていう、展覧会をやったことがあるんですよ。その時に発砲スチロールでも、ある程度構造が成り立つようなものを作ったことがあってですね、すごく断熱性能も良いは分っていたので、こういう自然環境の中でやってみました。

芦澤:なるほど。

谷尻:吹付コンクリートって、仕上がりがどうなるか自分でも予測できないじゃないですか、吹付過ぎたら膨らむでしょうし、その予期しない外観と言いますか、建物の姿が、ある種こう人工的な行為なんだけど、出来上がるものが自然に近い、近づくっていうことを、こういう自然の風景の中では、作れたらいいのかな?ということで今やっています。

芦澤:コンクリートと鉄筋が一応、かなり効いてはいるのですよね?

谷尻:効きます。はい。これは群馬の温泉の庭、おっきいお庭があるところに、露天風呂の施設をなんか作ってほしいという依頼で、ランドスケープと露天風呂って言われたのですが、お湯がいくらでも出てくるので、水系のランドスケープで、全部が水の庭で、こういう深いところが、お風呂になってみたいな。とにかくランドスケープなのか、すべてが温泉ともいえるような、そういうものを作ろうというので、提案して、これはどうなるかわかんないですけど、これは提案したばかりです。

芦澤:行政の仕事ですか?

谷尻:じゃないです。民間のホテルからの依頼ですね。これは昨日締め切りだったプロポーザルの図書館のコンペです。ホントはみせたらダメなのかもしれないですね。勝つかどうかも、残るかどうかも分からないですけど。こんなの出しましたみたいな。一応、内緒で。

芦澤:指名?指名のプロポーザル?

谷尻:フリーのプロポーザルで。岡山です。公共1000u以上の経験のある人しか出せないとかって大体ダメじゃないですか。僕たまたま尾道のさっきのホテルの、プロジェクトが公共なので、設計中だけどいいでしょって言って無理やり出さしてもらいました。どうなるか分からないですけど。こんなものを今、出しています。これ実際時間がなかったから2日でやりましたね。増築なので、もともとの建物のレンガとか、こうアーチみたいな形をわざと、デザインコードにして、つくるみたいなことをやったものとか。

芦澤:構造は?構造はなんですか?

谷尻:構造は鉄筋コンクリートですよ。
これは最近ファイナルに残って負けた中学校のコンペです。これも実は2日でやったんですよね。

芦澤:俺も出そうと思ったけど出さなかった。

谷尻:だからコンペひたすらやっています。筋トレっていっていますけど。とにかく絶え間なくコンペやって、いざという時に力が出せるように、日頃から考え続け、つくり続けるっていうことをしています。頼まれた仕事以外の、自分たちのプロジェクトをどうつくるかっていうことを、常にやっていますね。


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