平沼 : 一番初めは打瀬小学校ですか?

赤松 : はい、そうですね。【画像】これは図書室ですね。中庭が連続的にあるのに対して、室内の建具を開けてしまうと、ほとんど一体になる、どんどん連続していくような空間です。

小嶋 : 外にいて気持ちがいい外部をつくることと同時に、外にいることが辛いときを緩和するのが建築だという当たり前の話にどのくらい戻れるかだと思うんです。そのときに、オープンスクールがこうあるべき、というよりも、良い環境があれば人は活き活きして神経が活性化するし、気持ちの良い風が吹いていることはすごくいいことなんだとか、そういう意味での原理主義になってきています。でも、エコとかを言いたいわけでもないし、この学校も震災前に設計していましたから、文科省の方針で、当然、全学校、全冷房・全暖房化方針が実行されることを想定して、設計段階ですべての配管経路をとっています。

赤松 : 今は冷暖房はついていませんが、後々、工事に対応できるようにしておきました。

小嶋 : 暖房はペレットストーブ対応ができるようにして、まずはこの冬、一冬見てみましょう、と言っていました。そんなときに震災があって、冷房も入れるんですよね、ということは誰も言わなくなりました。

平沼 : でも、圧倒的に気持ちいいですよね。

小嶋 : 建築なんか好きじゃなくても、夏休みにここに入ってきた人たちは、どんなうるさそうな大人でも、歩いているうちにニコニコしてきます(笑)。そのくらい風通しが良くて、快適です。

赤松 : 【画像】ここは建具を開けてしまうと完全に外部になりますが、実はウッドデッキの仕上げ で、全部防水もしてあるので、雨が降ったときにちょっとぐらい吹き込んでも大丈夫なようにしてあります。閉じちゃうと風が抜けなくなるので、雨が降っていても開けておいてもらえるように、という理由で外の仕上げにしています。ただ、閉じればインテリアになるので冬場はインテリアの通路として使ってもらえます。

小嶋 : 夏に、ちょっとぐらい雨がぱらついても構わないから、通るところを開けておくだけで、風が抜けていくんです。

赤松 : 【画像】あとは、ここに足洗い場があって、このバルブを緩めると、ピューッと水が出てきます。基本的には、夏の間は裸足で生活している学校なので、こんなふうに足洗いがあって、この辺りで雑巾で足を拭いて上がって・・・というようなルートで中に入ります。

小嶋 : 遠回りだったから足を洗わなかった、と言わせないくらい、あちこちにつけています(笑)。

芦澤 : この小学校では、外部と内部が一体的になっているんですけど、でも内部、外部が曖昧になるというよりかは、建築は建築としてしっかり建っているという印象を受けています。建築も風景の中で消してしまう、ということではなくて、建築は建築として、外部からつくっていくような感じでしょうか。

小嶋 : 躯体が立っている、という印象です。透明性ということ かではなくて、どういうふうに拠り所をつくるか、ということを考えていました。このL型の壁があることで、Lの内側だけではなく、Lの周りがクラスルーム的な領域になることを期待しています。だから、壁自体はすごく分厚いですし、存在が消えてほしいとは思わない。それは、雑木林の木が細ければ細いほど良いというのではなく、間に見え隠れするから奥に行きたくなるということがあるわけですよね。だから、ここはぜひ実際に歩いてほしいと思います。

赤松 : 中庭も、ここは上り棒があったり、滑り台があったりして、いろんな性格の中庭を連続的につなげてつくって います。

小嶋 : ここでもインテリアになりうる通路がひとつあって、季節によっては全部あいているという状態です。

赤松 : ここにも建具があるんですけど、ここもスパーンと開けてしまって、体育館がほとんど外のようになっているような状態です。

平沼 : ひとつだけ赤松さんに聞きたいんですけど、公共施設をやるときにこれほど開放的なことを提案していくと、台風とか来るじゃないですか。

赤松 : 台風はものすごく心配されました。

平沼 : 例えば大阪だったら、安藤さんは「そんなん、怖い思いしたらええ」で終わるんですけどね(笑)。なかなか僕らのような軟弱な設計者は、きちんと対応させられるわけですよ。そこに対する解決策って言うのかな、相手への助言と言いますか、何かありますか。

赤松 : 建具に関しては、メーカーにはちゃんとした保障があるので、大丈夫だと思いますが、 教室の作り方については、教室のドアがないなんてありえないでしょう、 とおっしゃる先生もいました。「家には玄関があるでしょう。玄関のドアをピンポーンと押して、ドアを開けて、こんにちはと言 いますよね、教室もそれと同じなんです。ドアがない教室なんて、教育ができません!」と。 それに関しては いろいろと説明 していって、これの場合はこうです、といろいろ資料を見せながら言っていくことで、「そう、じゃあ まあ、そうね・・・」という風になります(笑)。でも、あんまり無理 強いしてもうまくいかない・・・っていうところは難しいですよね。

小嶋 : 「たまには僕も打合せに行こうか」って言っても「まだ小嶋が行ってもぶち切れるだけだから、もうちょっと来ないでいい」とか、よく言われます(笑)。僕は母親が小学校の先生 やっていたもので、 (笑)先生って 会話の仕方が、何かとかぶせてくるんですよ。たまたまそこにいる人と設計者との打ち合わせではなくて、「あなたたち分かってないから教えてあげるわ」って言われるわけですよね。ただその人たちから見ると、建築家も独特のしゃべり方をしているので、そういう意味ではお互い様なんでしょうけど。

芦澤 : それは喧嘩になりますよね(笑)。ではちょっと時間が残り少ないので、美浜打瀬小学校の音と空間の関わりについて、聞かせていただけますか。

赤松 : 最初の「FRUID」の話の中で、コンピューターのシミュレーションをお見せしたのが、この美浜打瀬小学校です。コンピューター解析していたのは、ちょうどここを切り出した状態で、ここで音が発生したときにどうまわっていくかということだったんですけれども、普通はオープンスクールで向かい合わせの教室というのは、基本的にはNGなんですね。なんですが、ここに関しては可能な限り、天井と壁面の吸音を合わせて解決していくということをやりました。 壁も、ここの下にファンコイルユニットを仕込んだり、いくつかの仕組みをもたせてつくっているんですけど、それがこれです。ここの下にファンコイルユニットが入って、 窓際でそれを噴出している。この、天井が リブ状になっている こっちがグラスウール、こちらが有効プラスターボードで、吸音する ようになっています。 このコンクリートで少し囲まれたコーナーも 音をある程度拡散していくために、有効に働いています。結構、アルコーブとして子供たちに人気のある場所となっています。

芦澤 : 音と言っても、なかなかひとつの論理で解けない気もするんですけど、例えばいろんなシーンがあって、いろんな音の条件が出てくると思うんですけど、その辺りはどのように設定されたのでしょうか。

赤松 : その辺りは 当時東京大学生産技術研究所にいて、現在は明治大学の准教授の 上野佳奈 子さんという方が中心になってやってくださったんですけれど、「これだと、ここの音の回り込みはもうちょっとさえぎらないといけないんじゃないかな」ということを議論しながら、先ほどのシミュレーションで視覚的に確認をして、ということを行っていました。

小嶋 : 上野さんに巡り合ったのは、彼女たちが「オープンスクールの音環境が良くない」と言って、学会に発表したところから、悪いって言うんだったら何か良くする方法もくださいと言って、相談したことに始まります。実際、打瀬小学校は、美浜と比べると辛いです。

赤松 : ちょっと話が長くなってしまって申し訳ないんですけど、打瀬小学校は その後、増築をしたんです。 美浜打瀬より1,2年早いタイミングだったのですが、音環境を徹底的にやろうと思って、先ほどの上野さん に入ってもらったら、やっぱりものすごく違うんですね。同じ学校なんだけど、歩いていくだけで、音環境の違いがこんなにもあるのかということを体感できる。それくらい違います。だから美浜の先生も、打瀬でどれだけ効果があるかっていうのを、体感してわかってくださっていました。

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