芦澤 : 次に、「黒と白」というロジックをおっしゃっていると思うんですけど、これはスペースブロックの次の展開としておっしゃっていたのですか。それとも同時期に始められたのですか。

小嶋 : 順番ではないですね。何と言えば打合せ相手を説得できるんだろう、と考えていく中で出てきた話です。プランの打ち合わせを、個人の住宅のクライアントや、あるいは学校のような 相手とやっていくと、細かい話になりすぎるじゃないですか。延々 相手の好みの話になったり (笑)。建築家というのは、もうちょっとスパッと整理したところで納得してからだったらいくらでも聞けるけど、そうじゃないのに言われると収集つかない。そういうときに、学校の話 に例えて言うなら、「○○実験室」みたいな場所はだいぶ黒ですよね、と言っています。黒って何かって言うと、部屋名=使用目的で、それ以外に使われることがない部屋ほど黒と呼びましょう、というルールを敷いています。そうすると現代の住宅の個室とか、便所とかは、普通、黒ですよね。でも、伝統的な日本家屋の畳の部屋が四つ間取りになっているのは、いろんな使い方をしているから、あれを黒とは言わないですよね。押入れくらいしか黒はないですよね、とか、そんな話が可能になります。そう言っているうちに、海外の学校のプロジェクトでも、「その呼び名は便利がいいが、どのくらい一般的に使われているのか」と聞かれて、「僕らが考えました」と言うと、「じゃあもうそれでいこう」となって、「今度のプランは黒が入ったな、増えたな」っていう話になるのです。そうすると、割としめたもので、同じ言語でしゃべれると、その人たちが誰かに報告しても、軸がぶれないので良いと思っています。

赤松 : ネット・グロスみたいな話になってしまうと、また違ってきてしまうので、それをこういうふうに説明するのに割と使っています。

芦澤 : 【画像】これ、すごいですよね。いろんな名建築が、全部黒と白で整理されています。

小嶋 : (スライドの画面は)会場の方にはほとんど判別できないと思うんですけど、後で出てくる氷室ハウスはここに出てきます。この調査をしたとき、もっとも黒比率がすくなかったのは、4%の菊竹清訓さんのスカイハウスです。妹島和世さんのプラットフォームUは4%で並んでいます。この表には入っていないんですけど、赤松佳珠子が設計したハウスYKという細長い住宅、もうひとつ、五十嵐淳の自邸も同じく4%です。その辺が最も白い建築です。実際には、体積半々くらいが一番普通のユーザーでも使いこなしやすくて、エアボリュームの夢もあるけど、いろんな持ち物を仕込んでおいたり、そういうことで片づけやすい家でもあったりするようです。

芦澤 : 【画像】その白いということと、ここに出ている絵とは何か関係があるんですか。

赤松 : これは比較的、小学校とかを設計するときに、 教育委員会の人とかお役所の人とか、その保護者だったり、地域の人に対して、学校を設計する設計者という立場でお話しするときに、いつも出しているんです。学校というのは、いろんなところで子供たちがいろんな活動をしているのが良い学校で、建物が立派で、どかんとあるようなものではない、子供たちの活動を設計したいんです、という話をするときに出すんですね。それは黒 と白 で言うと、白というものをどういう風にどのくらい獲得していくのか。実は、黒が、いわゆるアクティビティがない場所では全然なくて、黒は黒のアクティビティがあるんですけれど、いろんな使い方をするという意味では、白を獲得していくことが必要なのですね。

小嶋 : 白を獲得しておかないと、規定されたアクティビティ、行為しか起こらないのです。だから、白というのは、使われ方によって呼び方が変わるような場所です。例えば、ちゃぶ台があったら食堂になって、みたいなことです。ここのスペースが、普段何かはわからないけれど、月に1回でもレクチャーをやっていると、それによって白化されている、と僕らは話しています。社員食堂で講演会やったら、そこは白の空間になります。だから、同じ建物でもユーザーが変わって使い方が変わっていくと、黒だったところが白になる、と考えてもらっています。そういう意味では、白がある空間でないと、こういうようなアクティビティは 喚起されてこないので、白が必要だと言っています。そうでないと、この部屋で何をしなさい、ということしかない、ロビーと教室しかない予備校みたいなものになってしまいます。

芦澤 : では、白と黒というのは、一旦は一応、規定するとしても、それが逆転したり、黒が白になっていくということは、大いにあり得るということでしょうか。

小嶋 : ありえます。理科の実験室でワインパーティをやりはじめたら、そこは黒じゃないですよね。

赤松 : だから、理科の実験室もオープン にして、机も動かせるような ものを小学校でつくったことがあります。そこは一応、理科・家庭科教室 なのですが、完全に白の空間になっています。

 

芦澤 : じゃあ、このあたりで、氷室ハウスのお話をお願いします。

小嶋 : この辺はスピーディにやりましょう。【画像】上のサイトプランが1985年に設計してデビュー作になった氷室アパートメントです。その下にあるのが、僕の両親の住まいである氷室アパートメントです。この氷室アパートメントの方は、今売られ ているGA JAPANでデビュー作を語れと いうことで、また今度おこなう展覧会(※開催中)で、1985年のSDレビューの模型を大阪から送ってもらって展示します(笑)。

平沼 : まだ残っているんですか?・・・すごい(笑)。

 

小嶋 : 【画像】 氷室ハウスは 黒と白の家で、リタイアした両親の家なのですが、60坪もあって、物が捨てられない人たちなので、農家の納屋を家にくっつけていると思ってもらうと良いと思います。ただ、全部納屋ではあんまりなので、親父の部屋とか母親の部屋とか、靴が多いので靴の部屋とか、そんなものが並んでいて、一周すると60mにもなります(笑)。田舎だったので、最近はスプロールしていますけど、山から撮ったら相変わらずこんな風景のところです。氷室という地名が示すとおり、すごく寒いところなので「引っ越したら体の調子が悪くなったから、お前が面倒を見なさい」と両親から言われない、ということが、設計のターゲットです(笑)。だから、快適ですよ。

芦澤 : じゃあ、断熱はばっちりですか?

小嶋 : ばっちりです。60坪で、完全外断熱でペアガラスですが、総工費は3000万円です。死に物狂いでコストダウンしています(笑)。それもこっちにツケがきますからね。
使い始めのときはこんな感じだったの ですけれど、今ではものすごいことになっています。白を黒化しています(笑)。でも、まぁ来客がやたら多い人なので、地域の人とか職業関係の人とかが一緒に入っても違和感がないようにと思って、この30mのリビングをつくりました。同時に、今はそういう使い方をしていませんが、グループホーム的に、遠い親戚とか、何らかの事情で一人になってしまった人たちが集まっても暮らしていける家のつもりで設計しています。【画像】奥から見返すとこんなふうになっています。ちょっとまがっているのは、ドーンと一直線よりかはすこしこのくらいの方が良いのではないかと思ったからです。黒の方は白く塗らない素地で、仏間から台所、井戸の部屋と続いてきます。ここでは昔の井戸を保存してあるのですが、通り抜けていけるようにしています。
また、ファンコイルからファンをとったような、 コイルだけの温水暖房器を床下に入れると、対流だけであったかくなるからお金がかからないで、割と身体的にはあたたかくなります。それで、床にスリットを切っています。

芦澤 : 昔から温熱環境に関しては、いろいろお考えになってやられていたんですか。

小嶋 : 自分が居心地が良いかどうかというのは、自分が設計した空間にとってはすごく重要だと思っています。実は、僕は冷房がダメなんです。耳が悪いのですが、空調機の基調低音の音がマスキングされるので、空調機がまわっている部屋も苦手なんです。あと冬の寒いのもダメ(笑)。

芦澤 : 【画像】ここで、ちょっと下世話な質問かもしれませんけど、小嶋さん赤松さんのお二人の中での役割分担というのはおありなんでしょうか。

赤松 : 特に決まっているわけではないですね。ただ、プロジェクトの中である程度、何となくといううのはありますが、厳密ではありません。よく聞かれるのは、赤松さんはインテリア担当なんですか、と聞かれることはありますけど、そういう分担は一切ないです。最初のプロジェクトが始まるときに、同じようにがーっとやって、それは事務所のスタッフも一緒になって議論しながらつくっていくので、そういう意味ではこういうふうに分担しています、というのはないですね。

小嶋 : 得手不得手は、多少はあるので、例えば学校のプロジェクトで、先生たちとの打ち合わせを延々やるのは僕は苦手です(笑)。赤松は割と上手です。それから、家具を学校にどう置いていくか、ということをどこまでも飽きないでやっているのも、この人なんです(笑)。

赤松 : どちらかというと、ちまちまやるのは好きなんです(笑)。小嶋の方が、割とスパーンと判断しますね。

小嶋 : 僕は筋が見えたところで、「はい、次」と言って進めようとするのですが、でもそうやると上手くいかないんですよ。そこから先にちゃんと対話しながら落ち着かせていく、みたいなことが僕はあんまりできない。ワークショップとかも、やっていますと言っていても、実際は赤松頼りで、僕は後ろの方で見ているだけだったので、今、アーキエイドというプロジェクトで牡鹿半島に行って、住民との対話をしていますが、赤松はそれには関係なくY-GSAでやっているので、初めて自分と向き合っています。

芦澤 : 大変ですか?

小嶋 : そういうことを、一緒にやっている大西麻貴さんに白状したら、彼女も心配して、すごいフォローしてくれて(笑)。大西麻貴さんというのは、一番若い世代の抜群に冴えた建築家ですけど、同時におじいちゃん、おばあちゃんとあれだけ膝を突き合わせてしゃべれるということにもびっくりしました。

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