小嶋 : これは、ハノイの一番古い街、「36通り地区」と呼ばれているダウンタウンです。 間口が2.5mくらいなので、角の家があって、2軒目、3軒目、4軒目、5軒目、6軒目、7軒目というふうに10mの間に4軒位建っています。角は本当に 奥行きがないのだけど、街区の中央 の方にいくと奥行きが70mくらいある細長い町家型の敷地が あって。 ただ京都と違って一方向ではなくて、角から陣取りでやっているので、分かりにくいのです。もともとはすごくきれいな京町家を縦に3つにスライスして繋ぎかえたような、中国的大家族の家だったのが、戦争難民とかを政府がどんどん入れて集合住宅化したら、 高密度になって、プライバシー を求めて全部中庭をつぶしてしまって、 その状態をどういう風に良くしていくか、ということが課題でした。それで、こういうひとつの 大きな街区を2年間かけて、すべての家のすべての部屋に入るという調査を東大の大学院生と一緒にやっていました。これがさっき言った、 端部から 陣取りしている、すごく面白い敷地です。こういう住み方をすると、1km角に約10万人ですから、 快適に住めるようになれば、地球は壊れない。どうやったら快適に住めるかと言うと、ここ(←画像確認)にターゲットが入っていますけど、ローエミッションで、町家のリニューアルで都市自体をリニューアルできないか 。そのときにプライバシーをとっていないと結局窓を開けられないからエアコンになってしまうというあたりを パラメータとして、ポ ーラス率(外部比率)50%としています。ただ、外部といってもさっき言ったように、雨がかからなければ 室内のように使っています。こういうところで、延々、風 解析をやったら、こういうものができました。これが風 解析で、 空気齢という記述方法で書いていますけど、色が濃いところは空気の年齢が高い・・・というと、専門的にはちょっと違うのかもしれないですけど、換気していないので、積み木の向きを変えたり、積みなおしたり、窓の開け方を変えたりと、延々やっていくとどんどん薄くなっていって、漸近線でこの辺までいったからいいか、実際にそれでつくろうということになりました。スペースブロックですから、平面でも断面でも正方形ばかり出てきます。記号みたいで、これ、現場では大変なんです。迷います。自分がどこにいるのか全然わからない(笑)。

芦澤 : 最初はやはり模型でやられるのですか。

小嶋 : これの場合はほとんど模型ですね。

赤松 : スペースブロック上新庄の場合、 先ほどの話しにもありましたが、職人さんが目的の部屋にたどり着けないということが日々起こって大変でした(笑)。

小嶋 : 本当は古い街につくりたかったの ですが 、現地調整が難しくて、一緒に プロジェクトをしたハノイ建設大学のキャンパスの片隅に竣工しました。敷地は北回帰線のちょっと南ですので、夏は太陽がほぼ真上からくるから、内のり2.6mの穴が3つあいていれば、これくらい(←画像確認)自然光で明るくなります。それ以上開けるともう暑いし眩しい。これは(←画像確認)真上からきているのがよくわかります。この3つだけですが、どーんと(光が)落ちてきます。

赤松 : こういう光の状態は日本とは全然違いますよね。

芦澤 : 光も風も、こちらはシミュレーションもされているのですか。

小嶋 : 光は単純に角度を変えられる台のようなものをつくって、それで屋上に持っていって試しています。

芦澤 : 模型で?

小嶋 : 模型を使ってです。コンピュータは、証明はできるけれど、直感的に掴みにくいので。

芦澤 : 感覚としてはそうですね。

小嶋 : はい。太陽高度に合わせて昼間の光を入れて模型を見ます。

平沼 : スペースブロックの組み合わせで、最終、敷地に着地させるときってすごく難しくないですか。

赤松 : そうですね、でも一応その敷地の中である程度は組みながら、でももう一回こっちで組んで、というように、あっちいったりこっちいったり、という感じで、延々とやっています。事務所の中で、他の人 は、赤松、何か積み木やって遊んでいるんだよね〜って言われていました(笑)。

小嶋 : こちらは当時、東大の大学院生が中心になって、自分たちの開発した未発表の解析ソフトを用いてやってくれていたの ですけれど、壁解析をやっては組み替えろと指示をして、ひとつ新しいパラメータを入れたらまた組み替えて・・・と、あまりに僕たちがしつこくやるので、やり方を教えるから自分たちでやってくれって言われてしまいました(笑)。それで以降は東京理科大学の小嶋研究室の学生が風解析シミュレーションをマスターして、みんなそれを見ながら、今度はそれを模型にして。今は、藤村龍至 さんという建築家が、 飛ばない、戻らない、 分かれない・・・ 超線形 設計 って言っていますよね。彼からすると、これは理想みたいですね。大勢であるファクターを徹底的につぶしていって、近づけていく。ただこの手法は、ある種の人にはとても向いているけど、ある種の人には全く向いていないので、人によってはたった三日でいらいらしてしまうと思います(笑)。

芦澤 : 設計期間というのは、上新庄にしても、こちらにしても、相当長いですか。そんなことはないですか。

小嶋 : 上新庄は普通の仕事だからね。 スペースブロックハノイは研究でやっていて、風 解析を入れたりしたので。あと、ベトナムというところでモノをつくるという事情が分からなくて、といったこと もあって、調査のスタートから竣工までは5年間、実施設計にかかってから竣工までで3年ですから、それほど、 驚くほど長いわけではないです。

芦澤 : ちなみに最近は、このスペースブロックという概念での設計はされていますか。

赤松 : ここのところはやっていないです。

芦澤 : スペースブロックを使うべきプロジェクトがないということでしょうか。それともスペースブロックはもう飽きたということでしょうか(笑)。

赤松 : いやいや(笑)、 プロジェクトによって向き不向きがありますから、そういった意味ではまたスペースブロックをやれるようなプロジェクトがあれば、それはそれでもちろん、やりたいと思うんですけどね。

小嶋 : 例えば、小学校をスペースブロックでつくろうとチャレンジしようかなぁと思ったんですけれど、全然、無理なんです ね。 そういう意味では向き不向きがあります。

赤松 : スペースブロックノザワという住宅を東京でやったことがあって、それは見た目はほとんどスペースブロックに見えない、周りが全部ガラス貼りなんですけど、実は中が全部立体の積み木になっています。確か 6年前で、スペースブロックのプロジェクトとしてはこれが最後ですかね。

小嶋 : いわゆる僕らがベーシックスペースブロックと言っている、ただ3次元的な塊をどういうふうに扱うかという解釈にまで広げれば、今でも結構、思考としては入っています。 本来3次元的にどう考えるかという方法なのだと思います。

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