平沼 : では、最後の作品、お願いします。

藤本 : このプロジェクトは、武蔵野美術大学の図書館なんですけど、ものすごい考えましたよ、これは。全て思いつきから始まるんですけど、でもすごくいい経験だったなと思ったのは、とてつもなく考えましたね。これは指名コンペだったんですけど、最初は、武蔵野の森というのはいわゆる東京の原生林みたいなものなんですけど。まぁ、最初は森かなって(笑)。あとは図書館というと本棚がばーっと並んでいるようなイメージがあるんだけど、もっとこう、ブラブラ散策できる方がいいなというのが個人的な図書館に対するイメージとしてあって、森みたいな図書館ってどんなのかなって言って、箱がいっぱい建っていて、その周りが全部本棚になっている、さらにそのまわりがガラスで囲まれているものを提案したんですね。本の森って言うタイトルをつけて。そこを散策してブラブラしているうちに学生がインスピレーションを受けて、本と出会うという割とシンプルな計画だったんです。それで、選んでもらって打合せが始まると、なぜか、このプランでは全然だめなので、考え直してくださいって、まずいきなり言われたんですよ。あれ?と思って、これでコンペとったのに、何なんだろうって、最初の3ヶ月くらいはその意味がわからなくて、いろいろやり取りをしているうちに、図書館のあらゆる複雑なバックグラウンドがそこにあることがわかって、全部見させてくださいっていって、そこからヒアリングをし始めたり、いろいろ悩んだりして、図書館というものがどういうものなのかと。同時に、僕らの中で持っていた「森」という最初のインスピレーションは、自分の身体的な感じも含めて、捨て去るわけにはいかなくて、半年くらい研究を重ねた結果、この画像に文字がふたつ書いてありますよね。左側が「Searchability」といって、検索性と僕らは言っているんですけど、本を見つけるシステムですね。システマチックに本が並んでいると、本には番号が付いているから見つけやすいんですね。通常の図書館で本棚がばーって整列しているのは、そちらを肥大化させるために、ああいうつくりになってるんですね。一方「Strollability」というのは、散策性。つまり森の中をプラプラ歩き回るような感じになっていると。この二つの概念って、言ってみれば正反対ですよね。ちゃんと見つけやすいように整理整頓すると、そこを散策しても別におもしろくない場所ができちゃうし、逆に森みたいなものをつくってしまったら、何にも整理されてないから、訳が分からなくなってしまう。この二つを融合させることがたぶん新しい図書館の、あるいは図書館の原型としての提案になるんじゃないかというところまで、研究を重ねたんですね。じゃあどうやって融合させるのかというときに、いろいろなものを試していく中で、最終的にこのスパイラル状の渦巻状のプランになったんです。すごく単純なんですけど、本来、整理整頓されているときというのは、いわゆるグリット座標に本を置いているんです。でも、ここではグリット座標ではなくて、極座標に置こうと。つまり真ん中に人が立ったときに、こういう向きで、ずっと番号順に整理されているんです。だから、整理整頓されている状態という意味では一緒なんだけど、グリットに置くのではなくて、中心からぐるーっと時計の針みたいに、整理整頓をしようと。このスパイラルには、開口部がいっぱい開いてるので、ここからすーっと見えるんですね。だいたいこのカテゴリーの本が、どういうふうに展開していくのか見える。視覚的にも配置上も、非常に分かりやすく整理整頓できるんですね。一方でこの渦巻型っていうのは、右側の絵にもありますけど、古い昔からの形式として、迷路の形式ですよね。気を抜いた瞬間にすぐ迷っちゃう。迷うし、さらに開口部がいろいろ開いてるから、ここに立ったときに、こっちの左右が見え隠れするわけですよね。あとは、ぐるーっとなっているので、空間が必ず消えていってしまうんですよね。そうすると、向こうがどうなってるんだろうって、誘い込まれちゃうんです。すごくわかりやすい幾何学と、迷路のような、あるいは向こうに誘いこんでいくような幾何学が、実は同居している形式なんじゃないか、ということで、ここの渦巻き型の中に図書館を入れ込む作業をずっとしていたんです。これって、正直むちゃくちゃたいへんな作業で、最後に何が物を言うかって言うと、やっぱり設計力なんですよ。学生さんの教育上、これは言っておかなきゃいけないんだけど、設計はうまくなきゃだめです!何か思いつくじゃないですか。こういうのおもしろいんじゃないかなって、それがちゃんと収まらないと、結局そのアイディアって全然説得力を持たないんですよね。力技で、これを建築に落とし込んでいくんです。この能力だけは、鍛えておいた方が良いと思いますね。これができれば、どんな突飛なアイディアでも、俺はこれを建築にできるという自信が生まれるわけですよね。他の人が試してみてもだめだったものでも、俺だったら他の誰よりもうまくできるとか。妹島さんの設計力って、ありえないくらいすごいじゃないですか。だからあんなとてつもないアイデアが建築としてのリアリティを持ってくるんですよね。安藤さんもそうですよね。彼らのプランとかを見てると、なんか、すごい!だからそういう基礎の設計力をバックグラウンドとして持っておくことは、必要なことですよね。僕、学生のとき、自分で言うのなんだけど、設計めちゃくちゃできたんですよ。そのバックグラウンドをもって、こういうわけのわからない抽象的な思考と組み合わせて、とにかく体力で、建築にしていくんですよね。その格闘がすごく大変であると同時に、おもしろかったですね。

平沼 : そうですよね。こう、たくさんの選択肢から選んでいく判断力とか、決断をしてく瞬間とか、うわーってくるときとか、あるじゃないですか。そのときに、設計力のなさを、自分で実感したことがあって、大変だなぁと思ったことがあります。

芦澤 : 藤本さんが強いのは、普通なら諦めてしまうところをどんな手を使ってでも、何がなんでもそこを、もちろん強固な設計力をしてでもやっていくとこが、すごいなぁって。

藤本 : いやぁ、でも、実際やったのはスタッフですけどね(笑)。だから、スタッフにやらせる力みたいなものも、あるのかもしれないですね(笑)。ただ、別に僕は自慢するわけじゃないんですけど、さっき上から見た模型って、最終版じゃないんですよ。ちょっと前なんですよね。ほぼこれで収まるんじゃないのって思ってたんですけど、A3くらいで出力して、見ているうちに、なんか硬いなぁと思って、久しぶりに自らペンを握って、ここはこうだろう、この壁のいくつかを、というか結構たくさんを、ぐにゃぐにゃっとひしゃげていったんですよね。これは何ともいえない直感で、このままだとなんかすごく硬い変な建物になりそうだなって、考え方としては同じなんですけど、このかたちをちょっとずつひしゃげていったんです。それを、スタッフが結構ちゃんと図面をもう作ってしまっていた後だったから、えぇ・・・書き直しですか・・・みたいに横で見ていたんですけど、申し訳ないとか言いながら。そのときは前後のことを考えて判断していたわけじゃなくて、かなり直感的だったんですけど、それが最終的に、この形式がちゃんと活かされたような感覚があったんですよね。だからアイデアって、うずまきだったら何でもいいのかっていうと、アイデアが建築になったときに、しっかり生きる最後の微妙なかたちとか、ディテールや素材って、全部あるはずなんですよね。それをひとつひとつ粘り強く探していって、全部は完璧にならないんだけど、あるレベルをちゃんとクリアして、できたときに、建築になっていく感動というか。やっぱり設計力ですよね。

平沼 : 設計力って、普通なら、学生をやって、アトリエに就職して、そこで鍛えられていくような感覚があるんですけど、藤本さんはどこでそれをやられたんですか?

藤本 : 僕はね、スタッフに鍛えられたように思いますね。

平沼 : スタッフ?

藤本 : 新建築のバックナンバーをずっと見ていただいたら、僕の初期の建物が載っているんですよ。ところが、全然だめなんですよ。いわゆる課題レベルでの設計力は結構あったと思うんですけど、さらにそれを実現していく実現設計力みたいなものに関しては、全然なかったんですよ。で、スタッフが一人増え、二人増え、としていく中で、自分たちなりの設計実現方法みたいなものを、だんだん模索していって、僕自身が図面を書かない方がいいっていうことがまずわかったんですよね。僕が書くとうまくいかない。だったらお前やれ!みたいな。それで出てきたものを一緒に議論しながら、模型も見ながら、判断していくっていうことがシステムとしてできてきて、そうするとよりレベルが高くなって、よりいろんなものが見えてくるから、さらにレベルが高くなってくるじゃないですか。逆に言うとすごい手間暇かけてしまったというのもあります。自分たちで模索しながら、失敗もかなり繰り返しながら、やってきたということが、いまだにどんどんいきたいなと思うんだけど、あるレベルを、どこかの段階で自分たちがクリアできるんだという感覚になるんですよ。それまではけっこう悲惨というか、大変でしたね。

芦澤 : でも、スタッフさん優秀ですよね。

藤本 : まあ、幸いと言いますか、優秀だったんでしょうね。やっぱりね。

平沼 : 独立して何年間かやって、確かに自分がペンを置いてしまわなきゃいけない瞬間ってあって、あとはやっぱりディレクション力というか、人にやってもらいながら、自分をどうコントロールしてドライブしていくかっていうことを付け足さないと、次のステップにいけない気がしています。

藤本 : そうですよね。でも、それぞれキャラがありますから、自分で書かないと納得しないっていうのは、それはそれで、またある。やっぱりそこでしか得られないクオリティって言うのもありますからね。僕は自分で書けないんですよね。なんかこう、下手なんですよ(笑)。

芦澤 : 例えば、ディテールとかはどうしているんですか?

藤本 : ディテールは、一生懸命考えますよ。考え方は変わってきました。ここはこうなったら水が入ってくるんじゃないかという話から始まって、大きなコンセプチュアルな、この面はこう見えてないとだめだよね、みたいな話まで、かなり議論をして、スケッチというか、落書き程度に描いて、じゃ、図面書いて模型つくっておけ、みたいな(笑)。

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