芦澤 : 次いきますか。

藤本 : はい、いきましょう。これは、いちばん最新の住宅です。ついこの間竣工したもので、計画は4年くらいずっとやっていました。ご夫婦二人のための住宅で、東京の都内のまさに密集地の狭小って言われるような狭いところに立っているんですけど、言ってみれば、いろんな床レベルがある。一個一個の床はすごく小さくて、この真ん中に見えている階段の足元の床は確か1.4m×2.1mとか、畳より一回り大きいくらいのサイズで、そういうような床が、ばーっと全体に分布している、全体が家になっている住宅です。このときは、ご夫婦と最初にお話ししたときに、自分たちの生活がリビングの机で仕事をするとか、ダイニングでご飯を食べるとか、あんまり決まっていないんですよねって、家の中をふらふらして気に入ったところで何かをするみたいな感じなんですよね、というお話を最初のミーティングでお聞きして、それはなんか共感できるなと。だったら目的ははっきりしてないけど、いろんな小さい場所をうまく関係付けて集めてあげると、ご夫婦にとっていい家ができるんじゃないかなというのが最初の発端だったんですけどね。もうひとつは、敷地がすごく小さいので、大きい部屋をとったとしても小さいリビングにしかならないっていうのが、なんかむなしいなと思って、だったら小さいのをいっぱい集めて積み上げた方が、部屋数多いだけいいんじゃないのって思って、お施主さんに見せたら、これはいいですねぇ!って、それでどんどんつくっていったんです。これはリビングなんですけど、これはひとつの部屋でもあるし、ソファみたいなものでもあるんですよね。さっき言った床がこのへんにあったりするんですけど。いくつかの床を組み合わせて大きな部屋として使ってもいいし、個々の床をそれぞれのスペースとして考えて引きこもってもいいし、そのへんの選び取り方がいろいろあるところが、この家の豊かさなんじゃないかなって思う建築ですね。

芦澤 : さっきの住宅とかで、クライアントの言うことって聞いてます?

藤本 : 聞いていますよ。僕めっちゃ聞いていますよ。ある時期から変わったんですよね。昔から聞いているんですけど、昔は、お話聞くじゃないですか、それですごいガチガチのプランを持っていっていたんですよ。おもしろいしチャレンジングなんだけど、ひとつ動かしちゃったら崩壊しちゃうみたいなプランをつくりがちだったんです。そういう閉じた世界で絶妙に完結しているっていうのがすごく好きだったんだけど、必ず「この部屋ってもうちょっと大きくならないんですか?」とか「この部屋とこの部屋を取り替えたいんですけど」みたいなことが出てくるじゃないですか。そうするとこのプランの意味がなくなってしまうので、プロジェクトがポシャることが多かったんです。どこからか、もっとゆるい秩序というか、例えば今回のだと、床がとにかくいっぱいあって、レベル差がいっぱいあるっていうところまでしか、そこがアイディアの根底ですよね。そこがリビングかバスルームかっていうのは、ある意味どうでもいいし、上から見たときの大きさなんかもある意味どうでもいいし。どうでもいいというか、どう変わってもそのアイディアの根底の強さは絶対に崩れないと。そうするとすごくやりやすいんですよね。収納なんかはうまいこと後ろの方に隠してあるんですけど、そこら辺は知恵といいますか(笑)。意外とお施主さんのご要望とインタラクションしていくと、よりリアリティが出てくるというか、生活のリアリティとコンセプチュアルなピュアさっていうのがうまく絡み合ってくるんですよね。だから何も聞かないでつくった最初のモデルというのは、わりと単調なんだけど、話を聞いて、練りに練っていくと、妙な豊かさがそこに出てくるような気がしていて、それは昔つくったT Houseという住宅だったり、House Oという、木の枝みたいにプランがなっている住宅があるんですけど、そういう不確定性を伴ったルールみたいなものをベースにしている住宅は、お施主さんのご要望って言うのが、そこに力を与えてくれるんですよね。だからすごい、なんでも聞いちゃうみたいな、笑。

芦澤 : 計画しすぎてない、Caveの感覚に近くなるんですかね?

藤本 : そうですね。なんでもではないですけど、かなり許容力をもって受け入れられる。受け入れることで、案の豊かさが増えてくっていうものにしたいなって思ってるんですよね。

芦澤 : 生活の仕方も見てみたいですよね。ぐちゃぐちゃだったら楽しそうですよね。

藤本 : そうですよね。でも意外と日本のお施主さん、特にこういう建築家に住宅をお願いしてくださるお施主さんて、わりとちゃんときれいにしますよね。僕みたいに散らかし放題みたいにはしないですよね(笑)。だから30年くらい経ったら、すごい味わい深くなってくると思いますけどね。特にこの家はね、散らかしても全然OKな気がしますけどね。

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