平沼:では、ここから具体的なプロジェクトに入っていきます。まずは大阪現代演劇祭仮設劇場ですね。実は僕もこのコンペ出していたんです。確か審査が2回あったんですよね。

五十嵐:プレゼンは1回ですよね。

平沼:そうですね。僕はプレゼンの前に負けたんですけど、プレゼンの会場には行って、北海道から来られた同世代の建築家が最優秀賞を取られたんです。だから実は一緒に飲む前に、そのプレゼンテーションで五十嵐さんのことは知ってたんです。

五十嵐:そうでしたか。

平沼:現在は大阪港につくられましたが、もともとは場所の提案もされてましたよね?

五十嵐:そうですね。敷地の指定がなかったんですよね。敷地も含めて提案しなさいっていう面白いコンペで。

平沼:それが西成ですか?

五十嵐:あれ僕ね、いろんな場所にコラージュしてみたんですよ。例えばヨーロッパの広場みたいなところとか。大阪は土地勘がなかったので、確か適当な写真にコラージュしてたと思います。

平沼:大阪の方はわかると思うんですけど、すごい場所にコラージュされてたんですよ。西成の愛隣地区にある職業安定所の写真が使われてたんです。その当時、その場所はまだ過激派がたくさんいた頃ですよ。

五十嵐:そうですか。

平沼:かなり危険な場所。

五十嵐:あ(笑)そうですか。

平沼:その場所に、この大阪現代演劇祭仮設劇場の提案をされてる北海道の同世代の建築家は、一体どんな人なんだろうと思っていました。(笑)
まずはこのあたりから伺っていきたいと思います。

五十嵐:はい。実は当時、一度も実施コンペに挑戦したことがなかったんです。確か年末だったんですよ。要は暇だったんですね(笑)。スタッフと話しをしていて、ちょっとコンペやってみようかということになって、探してたらこのコンペがあってね。仮設というところに惹かれたんですね。仮設だからできることって結構膨大にあると思っていたのと、実施なので自分たちの手に負える範囲じゃないとまずいと。確か年末から正月にかけての1、2週間でやったと思います。ビニールチューブを使うというのは初めから決めていたんですよね。理由は、仮設だということと、もともと樹脂素材にすごく興味があって、樹脂繊維を使いたかったから。僕は、既存の劇場に対する違和感があって、写真に向かって左の図が既存の劇場だとすると、今僕が喋っているところがステージみたいな位置付けで、それに対して客席は必ず対面にありますよね。その客席に入るのもある限定されたドアからしか入れない。一度席に座ってしまうと、仮にそこで行われてる事柄が全くつまらなくても、または例えばトイレに行きたいと思っても、席を立ちにくいイメージがあって、それを仮設でやるのはちょっとつらいなと思ったんですよね。だからまず既存の劇場に対する違和感みたいなものをひとつの定点にして考えていったんですね。そうしたときに、自由に出入りできるようなファサードと、ビニールチューブを使うっていうことがうまくリンクしたので、ファサードはそういうふうにしたわけですね。次に、いったんホワイエみたいな場所に入って客席の様子をうっすら伺えるような状態をつくろうと思ったんです。こういうオーガンジーみたいなカーテンをホワイエと客席の間にぶらさげて。そうすると、やんわりと空間が仕切られつつも、中の状況がわかる。どこにどれくらい人が座っていて、またはステージがどういう場所で、そこのステージでどういう人が何をやるのかということが、ホワイエの中から分かるんです。お客さんもいろんな人が来るわけで、座る場所も選択者の個性によって分かれてくるんですよね。そういう自由度がほしかった。だからまず居場所の選択を自由にしてあげたいというのが大きかったです。そうすると、角がある四角い平面よりも、丸い方がどこからでも入れるから、円形が必然ですよね。もうひとつは、例えば路上でギターを演奏している人がいたとするじゃないですか。その人が仮に魅力的で上手かったら、なんとなく人だかりができてきますよね。それですでにステージと客席の図ができていることになるんだけれど、そういう状況や状態を、そのままやわらかいもので包むような建築、または仮設建築をつくりたかったんですね。

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