平沼:
ちょっとスライドを預かっているんですが、説明していただけますか。
木村:
これは「私たちの視座」というタイトルを付けています。一枚ずつ説明していきます。
このシートは「桜の花びらと石畳」というタイトルをつけています。これは春の終わりの写真なんですが、つい先日まで咲いていた桜が石畳に散っている。それが石畳の上で薄ピンク色のまとまりを見せているわけですね。それはどういうことなのかというと、桜の木に咲いていた花が散って、花びらという小さな単位になっている。桜の木が花びらという小さなスケールを得ることで、石畳を覆うという、石の色合いとの類似性もあると思うのですが、一見まったく関係を持ち得ない木に咲いている花と石が近しさを持っているという瞬間を感じる写真です。
これは「裏庭の草花」というタイトルです。植物のものが多いんですけど、森の中の写真ではなくて、裏庭の光景なんです。裏庭に育つ植物の中を分け入って、座り込んで覗き込んでみると、こういった光景が広がっている。座るという所作が生み出すスケールの変化によって、歩いていると見えていなかった裏庭としてのまとまりが、しゃがむことで群れとして現れる。裏庭の中にあるさらに裏のような写真です。
これは、2枚の写真が上下に繋がっているんですけど、貯水タンクの写真です。一辺が4mぐらいのコンクリートのボックスで、隅の方に四角い穴が開いていて、水が溜まっています。山間のほうを沢が流れているんですけど、その沢の水がここに貯められています。みかんの木に潅水するためのタンクなんですけど、これの見方を変えると立方体の中に立方体の水が入っているように考えられます。それで立方体の中に入っている立体的な水の表面に、今手をかざして映っているんですけど、そこに自分の手や木が映り、空や風景が映り、立体的なんだけど、すごく表面的な水の重層性みたいなものを感じる。これは余談なんですけど、ここに沢蟹が紛れ込んできて、底で動いている。そうすると立方体の水の表面で重層性が起こって、そこで蟹が横歩きしている光景が見えました。
平沼:
芦澤さんはどうですか?
芦澤:
どちらかというと映像的な話なのかな。写真で見せていただいているんですけど、ストーリーがあるので、どちらかというと動画的な印象を受けました。それが、これから見せていただく建築の作品にどのくらい繋がっていくんでしょう?
木村:
繋がっていてほしいです。
平沼:
こっちのほうはどうでしょうか?「他人の庭」。
松本:
これは1枚1枚の写真ということではないので、適当に回してください。
誰かの所有物であるということを考えていたシリーズです。何枚かあるんですが、どれも何のための場所なのか、誰のための場所なのかよくわからない場所ばかりを集めています。それぞれの建物を用途の面で見ていくと、道らしさ、屋根らしさ、庭らしさなど、それぞれのボーダーを越えている瞬間があるようなものを集めています。たまたまこれらも植物をメインに集めたんですが、強いて言うならば、植物のための場所にも見えます。どういうことかというと、すごく公共性の高い場所だと言えるのではないかと思います。何のための場所か、誰のための場所か、よく分からないということが、逆に境界性を感じさせなかったり、所有区分の余白のようなものを感じさせてくれるのではないかと。なので、誰もが入れる公共の場とは違うかたちの公共の在り方というのを考えられる写真です。
補足して言うと、場所や建物は絶対に誰かのものじゃないですか。それは個人のものであったり、法人のものであったり、国のものであったりするわけですけど、ほぼ必ずといっていいほど誰かの場所であるわけですよね。設計をするにあたって、その中でしか考えられないというのは、考え方として、そもそもおかしい気がします。それで、たまたま私たちは規模的に小さいものを手がけることが最近多いので、ダイレクトに公共的なものに繋がっているものが少ないのかなと思います。だけど、そうじゃないと考えられないのかというと、そうではない。だとしたら、どういうところに公共性というものがあると思っているか、という写真です。
芦澤:
おっしゃるとおり、所有権があって、住宅があって、ビルが建っていたりするわけですよ。そもそも、その所有権って何なんだという疑問は僕もあって、設計するときにクライアントに頼まれて設計するわけですけど、クライアントは要素の一部だと僕は思っている。住宅の庭を設計するときでも、その人の庭と言うだけでなく、もう少し広い視点で庭を考えたほうが良いし、今見せていただいた写真はそういうところを示唆しているのかなと思いました。
木村・松本:
そうです。
芦澤:
では公共のプロジェクトはあんまりやりたくないですか?
木村・松本:
もちろんやりたいですよ(笑)。

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